13-45 叫びたいのに叫べない
山守と山越でも『多鹿に手を出せば殺される』と叫ばせてから相打ちする呪いを掛ければ良い。そうすれば山守に攫われ、死ぬ人が減る。
「さぁて、始めますか。」
洞の奥から地に潜り、山守の村を目指す。
イライラ、イライラ。
「まだか、まだ戻らんのか。」
「はい。」
山守の長に問われ、臣が答える。
臣は気付いている。隠れ里へ送った者も、調べに送った者も皆、山越の民に殺されたと。
どんなに待っても戻らないし、何か起きたのか分からない。
「長、社の司に」
「黙れ! もう言うな。」
「はい。」
山守の長は恐れていた。
もし山守社の誰かに、生贄や人柱にする人を攫えと言った事が知られればドウなるか。
考えなくても分かる。直ぐに捕らえられ、獄に放り込まれるだろう。
骨と皮になっても死ぬまで出られない。
「長、戻りました。一人、一人だけ戻りました。」
「連れてこい!」
山守から山越を抜け、山を下りる。危ないが、他より進み易い。けれど山越に分社が建って変わった。
山守の民なら誰でも、迷う事なく谷に放り込む。ソレを知った民が山越ではなく、大崖を下ろうと言い出したのだ。
「他のは皆、滑川を舟で下りました。ワシが戻ったのは、こうして伝えるため。」
クタクタのボロボロだが、目は輝いている。
「そうか。良く戻った、休め。」
「ハイッ。」
山越は、もう通れない。
隠れ里から多く攫って、子がポンポコ生まれたら仕掛けよう。それまで待つ。腹が立つが、認めたくないが引いてやる。
「人を集めろ。大崖を下り多鹿っ、カッ、ガァッ。」
呪い種を放り込まれ、口を塞がれゴックン。
「おさぁっ。」
声を掛けた臣も、同じように苦しみだした。
山守の長と臣に、呪い種が植えられた。アッと言う間に芽吹き、根を張りポポンと葉を開き、ニョキニョキと蔦を伸ばす。
「多鹿に手を出せば殺される。」
耳から血を流し、長が言う。
「えっ、えぇぇ。」
長の目玉がポロンと落ち、ポンと花が咲いた。
直ぐに散り、プゥっと実が膨れる。それがパンと弾け、目に見ない『何か』が広がった。
「多鹿に手を出せば殺される。」
「多鹿に手を出せば殺される。」
長の家に居た者、全てが向き合い、殺し合う。
フラフラと外に出た臣がバタンと倒れ、ピクピクし出した。
何も知らず集まった人が吸い込んだのは、『多鹿に手を出せば殺される』と叫ばせてから相打ちする呪い。
「多鹿に手を出せば殺される。」
「多鹿に手を出せば殺される。」
『逃げろ』と、『近づくな』と叫びたいのに叫べない。
口から出るのは違う言の葉。山守社へ逃げ込もうとしても、手足がミシミシと軋むダケ。