13-44 見間違い
偉山から戻ったカヨが、大岩の洞で『ただいまライブ』を開催。スッキリしてからコロンと横たわり、グッスリ眠ってパチクリ。
「エッ、と。おはようございます。」
洞の外に、平良の隠烏が待ち構えていた。
「おはようございます。」
平良の烏は祝辺の守の翼。隠烏は祝社に、代わり合って詰めるモノ。なのだがナゼか、祝辺ではナク山守に。
「きのう、初めて聞きました。良い歌ですね。」
出待ちのファン?
「ありがとうございます。」
ニコリ。
平良の後ろに、神が御姿を変えて現れ為さったのだろう。赤い目をした白い鷲が御坐す。
とても清らで、強い力を御持ちだ。
「では、また。」
ん? 平良よ、気付かぬのか。
「・・・・・・行っちゃった。」
見間違い、じゃナイよね。
「いらした、よね?」
目を擦っても、パチパチ瞬きしても見えない。というコトは。
「うん、湧き水を飲もう。」
大岩の北に沢がある。
鎮森を抜けるのは山守から山越へ逃げ込むか、御山を下る人だけ。狩り人や樵は知っているが、足を取られるので近づく事は無い。
「♪ 空を見上げて手を伸ばせば ほんの少し心が晴れるよ 俯いたまま歩くよりも ずっと先が見える そう思うから♪」
ティ小のうたを歌いながら、楽し気に歩を進める。そんなカヨを見守る隠や草木、獣たち。
カヨが呪い種だと知っている。知っていて、守ると決めたのだ。
人が立ったまま進める大きな洞、その奥に隠れ住んでいたティ小。
ガランとした洞の中で琴を掻き鳴らし、歌う闇が求めたのは光。ぬくもり、あたたかさ。
「わぁ、キラキラだ。」
沢が日を浴び、輝いている。
カヨは山守の民が嫌い。山守から山越に移り住み、コソコソ暮らす民も嫌い。他から攫われ、山守から逃げた人は好き。
己は生きて戻れなかったから、他の人は一人でも多く帰したい。そう願い、山守の民を減らしてきた。
呪い祝にしたテイには、悪い事をしたと思っている。けれど、あの時は他に手が無かったのだ。
「救うよ。」
テイを通して得た闇は、カヨの力になった。血も肉も無いが、己で動く事が出来る。
テイは消えて無くなったのに、カヨは人の世に残っている。認められたり許されたり、受け入れられたワケでは無い。
それでも消えずに動き回っているのは全て、見逃されたから。
山守の祝に憑いていた闇、本ティ。石室に隠されていた闇、ティ闇。喰谷山の洞にいた闇、切ティ。
梅の湖にいた闇、小ティ。流離山の洞にいた闇、ティ小。望月湖にいた闇、分ティ。
全て山守の祝だったテイに、呪い種を植えたから生まれた。
「少しでも多く。」
だから、もう迷わない。闇に吞まれたり潰されないよ。
ティ小のうた、ずっと歌い続ける。消えて無くなる、その時まで。