13-42 『ただいま』と言って『おかえり』と返される
アラは偉山には珍しい愛妻家だが、他の女には薄情。
といっても笑いかけたり優しくシナイだけで、心の中では女性を敬っている。
「そんな事、女に」
「黙れ、ヒヤ。男は女より力が強いんだ。口では無く、手と足を動かせ。」
アラに命じられ、不満そう。
「いや、そう言わっ。何をする! んですか。」
後頭部をパコンと叩かれクワッ。振り返ると、そこにクサが居た。どう見ても怒っている。
「臣だろう。大臣と同じに出来なくても、見習う事は出来る。違うか。」
「違いません。」
キリッ。
「なら動け、働け。」
「ヒャイ。」
偉山の男が二人も生き残った。
もう一度、と思ったが止める。臣はアレだが大臣は、死んだ男たちと違う。女を気遣い、手を差し伸べる事が出来るようだ。
あの男なら偉山を、女も暮らし易いように変える。そんな気がした。
「カヨさま。ありがとうございました。」
恕の隠頭、投が微笑む。
「えっ、と。」
戸惑うカヨの手を取り、ブンブン上下に振る投。
「偉山は変わります。きっと良い山に、暮らし易い山になる。そんな気がするんです。」
「そうですね。」
そうだ、山守の民に同じ事をしよう。そうすれば他からドウコウしよう、なんて考えが消えるハズ。うん、そうしよう。
「女が強い里や村は暮らし易く、あの大臣は女を苦しめない。と思います。」
「はい。」
投の考えもカヨと同じ。
「では、戻ります。また、お会いしましょう。」
「はい。お気をつけて。」
山守、山越にも同じ呪いを。
『多鹿に手を出せば殺される』ではナク、『他に手を出せば殺される』と叫ばせてから相打ち。そんな呪いを掛ければ、きっと多くの人が救われる。死なずに済む。
山守神は生贄、人柱も要らぬと仰せだ。なのに山守の民は『生贄を御求めだ』とか、『人柱を捧げよ』と言って人を集める。他から攫う。
山守を治めるのは長ではナク、山守の社の司。あの長が何を言おうが、村は社に逆らえない。
山守社の人が殺される事は無いが、継ぐ子が狙われているのは確か。継ぐ子に何かあれば、きっと狐が動く。
そうなれば何れ、山守から祝の力が消えるだろう。
「ソレも良いな。」
いやいや待て待て。山守の民を根絶やしにしてから、山越の民を根絶やしにする。祝の力はドウでも良い。
「手始めにっ。」
山守の民だ!
地の中を通って大岩に戻ると、鎮森の民が洞を覗き込んでいる事に気付いた。
「ただいま。」
思わず声を掛ける。
「おかえり。」
ニコッ。
『ただいま』と言って『おかえり』と返される。それダケの事なのに、胸がポカポカする。体を失っても、闇の種になっても変わらない。