13-41 焼こう
子を除き、偉山で生き残った男は二人。大臣のアラと臣のヒヤ。
山長が目をギョロギョロさせた時、何となくアブナイと思ったアラは駆け出し、家に逃げ帰った。
ヒヤは何となく、アラを追ったダケ。
「これからドウなるの。」
アラの愛妻、ビラが怯える。
水は大甕にイッパイ、食べ物と薪は蓄えられるダケ蓄えていた。けれど水は日に一度、汲みに出なければナラナイ。だから女たちが急いで汲みに出る。
アラは何となく己が出れば変わる、他の男と同じように殺し合う。そう思ったので出なかった。いや、出られなかったのだ。
「多鹿の誰か。隠か神か、目に見えない何かが力を揮い、偉山から男を消そうとしている。と思う。」
「そんな。」
「良いかビラ、良く聞け。ワシは死なん。後ろ指を差されても、どんな事を言われてもヌシを守る。」
キリッ。
一方、ヒヤは。
「こ、これから。ゴクリ。どど、どうなるんだ。」
家の中で小さくなっていた。
「その男は。」
ヒヤの妻、クサが呟く。
「な、何だい。」
「何でもナイよ。水を汲んでくるから、家ん中に居な。」
「ヒャイ。」
ビラは己が愛されていると自覚しており、アラを心から信じている。
クサは運とヨイショで出世したヒヤを評価しているが、己がシッカリしなければイケナイと思っている。
ビラは畑人でクサは田人だが、揃ってシッカリ者。アラとヒヤの役職は違うが、何れも山長に仕える男。
なのにコウも違うと少し、気の毒に思うが仕方ない。
外に出られない男に代わって、水を汲みに出るのは女たち。その度に見た事、聞いた事を話して聞かせる。
男たちが殺し合い、静かになっても外に出さなかった。悪い『何か』が残っている。何となく、そんな気がして。
「これは酷い。」
外が静かになるまで、家の中でジッとしていたアラが呟く。
「えぇ。」
ビラが目を伏せた。
家の多くが焼け落ち、残っていてもボロボロ。骸は鳥に突かれたり、四つ足に食われている。
あちらコチラの土が赤いのは、血を吸ったからだろう。
外が静かになってから三度、雷は鳴らなかったが大雨が降った。なのに、まだ血を吸っているようだ。
よく見ると腐った骸に、小さな虫が集っている。
「焼こう。」
「はい。」
大穴を掘るのは男でも、とても疲れてしまう。だから広く浅く掘り、器を焼くように焼く事にした。
まず浅い穴に藁を敷き、骸を並べて薪で囲む。さらに薪を上に、その上に藁を被せて泥を薄く塗る。で三か所から火を点け、燃え切るまで待つ。
その繰り返し。
「おや大臣、生き残ったんですね。」
「ヒヤ、手伝え。」
「エッ。」
「『エッ』じゃない。薪を集めろ、体を動かせ。」