13-40 多鹿に手を出せば
多鹿の織り人、カヨは好きで呪い種になったワケでは無い。
山守の民に、男に言えないような事をされて。死んでも腐るまで穢され続け、憎しみを抱いてしまった。
全ての男が悪い、とは思わない。優しく、賢い男も居ると知っている。
けれど山守の民、山越に移り住んだ山守の民。そして偉山の男は、どうしても許せない! と思ってしまう。
「グッ、グルジイ。」
体内で芽吹いた種が芽吹き、根を張り蔦を伸ばし葉を広げ、その口中に花を咲かせた。
「フガッ。」
ほんの少し開いた唇から闇を取り込み、プゥっと実が膨らむ。それがパンと弾けた。
「多鹿に手を出せば殺されるぅ。」
山長が大声で叫び、短剣を鞘から抜く。
「父さん?」
二人いる大臣の一人、山長の倅が声を掛けた。その三秒後、頭を抱えて苦しみだす。
「アァッ! ・・・・・・どう、して。ヴグッ。」
胸を押さえながら『何か』を吐き出すと、ドロンとした目になった。それから仰け反り、ニヤリ。
「多鹿に手を出せば殺される。」
と言いながら斧を振り上げ、山長に襲い掛かった。
カヨは偉山の腐敗ぶりに呆れ、長と倅に『多鹿に手を出せば殺される』と叫ばせてから相打ちさせる呪いを掛けた。
その呪いにより父と倅が傷つけ合い、殺し合う。
二人が口を開く度、呪いがフワッと広がった。呪い種を吸い込んだ男たちも、また同じように苦しみ、目の色を変える。
逃げる事など出来ない。
「あ、頭が。」
その場に居た男たちが苦しみだす。暫くするとブツブツ呟きながら器や薪、刃物などを手に取りニヤリ。
「多鹿に手を出せば殺される。」
建物の中で殺し合いが始まった。
「多鹿に手を出せば殺される。」
「多鹿に手を出せば殺される。」
「多鹿に手を出せば殺される。」
偉山の男たちが武器を手に、目の色がオカシイ者同士で殺し合う。
生き残りは他の男と殺し合う。皆、初めは胸を押さえて苦しむ。それから見えない『何か』を吐き出し、目の色が変わるのだ。
「多鹿に手を出せば殺される。」
偉山のアチコチで、男たちが殺し合う。
「多鹿に手を出せば殺される。」
生き残っても、他の生き残りと殺し合う。
女は子の手を引いたり、抱き上げて逃げた。近づいてはイケナイ。そう思い、転ばないようにして駆けた。
里や村の外れに建てられた、産屋や子の家が残っていればソコに逃げ込む。壊されたり燃やされていれば、近くの里や村の外れを目指す。
偉山の女が、女だけで暮らせるのは産屋か子の家。他には無い。
逃げ込んだ里や村でも、男たちは殺し合っている。巻き込まれないように遠回りして、目指す家へ走る。走る。走る。
「怖いよぉ。」
幼子が母に強く縋り付き、ガタガタ震える。
「ホギャ、ホギャ。」
母に抱かれた嬰児が、弱弱しく泣く。
逃げ込んだのは母子と娘。婆は皆、家の外に立っている。石器や割る前の雑木、弓や剣を手に、命を繋ごうと。