13-39 ナゼ、こんなに
偉山の狩頭、セイは良い働きをする。この度も。
そう思っていたのに、まだ戻らない。
「まだか! 多鹿には唸るホド良い女が居る。そう言ったな、ヒヤ。」
山長が臣を責める。
「はい。」
確かに皆、整った容姿をしてマス。
「ならナゼ、こんなに待たせる。サッサと連れてこい。」
そんなコト言われても、困っちゃうよネ。
山長と臣の会話を聞いていた大臣、アラが口元を少し緩める。
アラは偉山には珍しく愛妻家だが、他の女には薄情。なのだが暮らし易くするため、偉山を変えたいと思っている。だから大臣になった。
次は長、その次は山長だ。
「戻らぬ男を待つより、残っている女を太らせましょう。あんなに痩せていては、ねぇ。」
他の女に惹き付けられる事は無いが、大きく育つ子は少ない。
育つ子が増えれば、それだけ山の外に出る事が少なくなる。ソレを山長に気付かせればコッチのモノ。
「何が言いたい。」
「嬰児や幼子は直ぐに死ぬ。だから多く産ませなければ、偉山の民は増えません。」
ド正論。
「女を太らせる? ハッ。」
男は病に罹り易く、女と違って育ち難い。だから女は荒く扱っても、男より痩せていても死なん。
その女を太らせろと、多く食わせろと言うのか!
「女が増えれば、それだけ選べます。他から攫わず、好きなだけ。」
ムムッ。
「集谷に小柄、燠山も深山も強い。狩山は遠く、守りの薄い高盛崖の上を狙った。」
そう、だな。
「崖の上には、あの山守の民が暮らしています。多鹿に良い女が揃っている事も、きっと。」
「ハッキリ言え。何だ。」
「狩頭セイ。他の男も皆、高盛崖の上で死んだのでしょう。幾ら待っても戻りません。」
大臣が控え目に微笑み、膝をついた。山長は考える。アラが言う通りにすれば、と。
「若い男が減って居ります。山の外から攫ってくるのではナク、山の中で育てる。のも良いかと。」
ヒヤが膝をつき、首を垂れた。
「・・・・・・ウム。」
山長だって外から連れてくるのは『もう難しい』と、心の隅っこで思っている。
「今一度、人を集めっ。」
クラッ。クラクラクラ、パタン。
「や、山長?」
目を白黒させながら倒れた山長を、臣たちが囲む。
ユルサナイ。
「ヒッ。」
ユルサナイ、ユルセナイ、ケス!
「ナッにを、した。」
慌てた臣たちがアレコレ言いながら、己の手当を始めた。それをボンヤリ眺めている。起き上がるドコロか指さえ動かせず、目をギョロギョロさせて睨み回す。
「や、めろ。」
冷たい目をしたカヨが黙って、口中に呪い種を捻じ込んだ。
恐ろしく強い力で口を塞がれ、顎を上げさせられた山長はソレを飲み込み、喉を強く引っ掻いた。
「アッアッアッ。」
短く息を吸い込み、ギリギリまで見開く。
「ァガッ。」
呪い種が肺で芽吹き、根を張りだした。