13-38 お力を
高盛崖の上にある里は、崖の下にある里よりノンビリしている。ように思う。
「あの男が長なら、山越は守られる。山守の民を谷に落とし続ける。」
だから少し、御山を離れても障り無い。
「偉山を調べるか。」
偉山神は頂に御坐すが、偉山の民から祝の力を取り上げ為さった。だから巫は居ても祝は居ない。
神に見放されたのは、女を物として扱うから。
この山は祝辺の守が力を揮い、他から遠ざけているから戦で死ぬ事は無い。そう聞いているが、どうなんだろう。
麓までしか出られないから、良く分からない。
霧雲山の頂は山守に在り、それを守るのは祝辺の守。霧雲山の統べる地の長は人の守で、御山と統べる地を守るのは隠の守。
と聞くが、あの守もソウなのか?
いや、とつ守の事は良い。
この地で人を殺し、喜ぶのは山守の民と偉山の男。山越には山守から逃げたのが多く暮らしているから、良く良く見張らねば。
「うん。今は山越より、偉山だ。」
ヒョイと地に潜り、深山を抜けて偉山へ。
な、何だ? この山は。
風や雨に曝され、白くなった頭の骨が転がっている。嬰児に幼子、近くにあるのは母の骨だろう。
アチラからもコチラからも闇が流れ、渦を巻いている。
ん、男を憎む声。いや思いだ。
朝は男より早く起き、煮炊きして食べさせる。片付けたら田や畑に手を入れ、山に食べ物を探しに行く。釣り、狩りまでするのか! で、夜は夜で・・・・・・。
「信じられない。」
この山は腐っている。
「ありがとうございます。」
恕の隠頭、投が微笑む。
「多鹿の娘、救えました。ありがとうございます。」
「良かった。あの子、助かったのですね。」
「はい。」
偉山の男は攫った娘をドウコウするより、高盛崖から離す事を選んだ。
舟に乗せて逸散滝から落とし、そのまま川を流れれば次を。滝壺に沈めば、崖上から吊るして下ろす。そう考えたのだろう。
多鹿は思ったより、ずっと守りが固かった。思うように攫えず、山の中を探し始める。それで見つかったのがカヤ。
他の娘は里の中に隠され、見つけられずに慌てたか焦ったか。
もし高盛崖を登らず、下りずに済むならドウだ。
山守の民のように。きっと多くの娘が、あの扱いを受ける。死ぬまで穢され、死んでも朽ちるまで穢され、呪い種になるだろう。
「カヨさま。」
ハッ。
「偉山の女を守るため、お力を賜りたく。」
投が頭を下げた。
「男に呪いを、と。」
「はい、叶うなら。」
男が居なくなれば変わるのか。いや、そうはナラナイ。けれど女が力を付ければ、長か頭になればドウだろう。
女が強い里や村は豊かだ。それに何より、とても暮らし易い。女も男も、子も年老いても皆、幸せそうに見えた。
食べる物も着る物も、暮らす家もある。誰も凍えず誰も飢えず、穏やかに和やかに助け合って。
「他も見て回ってから、お答えします。」