13-36 呪いの花
山守の大岩から駆け付けた多鹿の織り人、呪い種になったカヨ。体は失ったが、その力は強い。
「ユルサナイ。」
地の底から低い声が響き、ヌッと闇が噴き出す。
「ムスメヲ、ハナセ。」
闇がブワッと広がり、カヤを肩に担いだ男が呑まれる。
「ギャッ。」
男の足元が泥濘り、ズボッと腰まで引き摺り込まれた。低くなって直ぐ、でんぐり返しを打ったカヤは、そのまま這いながら逃げた。
その足を掴もうとした男は胸まで填り、地に腕をつけて抜け出そうとして首まで填る。
「たすけ」
頭の先まで地に埋まり、手足を動かし大暴れ。
「ニガサナイ。」
生きて戻れると思うな。
「クルシメ。」
多くの女を嬲り、苦しめたのだろう。どれだけ攫った、どれだけ殺した。
「オンナノテキ。」
女から生まれたクセに、その女を傷つける。男だからと踏ん反り返り、女を見下す。そんなに偉いのか、男という生き物は。
どうなんだ。
ここは地の中、真っ暗闇。息なんて出来ないし助けも来ない。
「死にたくない。」
前後左右から押し潰され、動かせていた手足が動かなくなった。
「何も見えない。」
ドッドッドと心音だけが響く。
「痛い、苦しい。もっと生きたい。」
己が殺した女の顔なんて覚えてイナイ。けれど母の顔が、泣き顔が頭に浮かぶ。
「母さん。」
地が割れ、消えた男が吐き出されるように現れた。腰を抜かす者が多かったが、セイは横柄に顎を杓り、若い衆に調べさせる。
「・・・・・・し、死んでるぅ。」
体の骨は折られ、胸も腰もペッチャンコ。なのに頭は潰されず、涙と鼻水で汚れた顔は恐怖に歪んでいた。
「オイ、な」
セイの口に『何か』が入り、それを飲み込んでしまう。
「ゴホッ。オイ、何をしている。まだ」
飲み込んだ『何か』が胸で膨れ、ボコッと動いた。
「多鹿ニ手ヲ出スナ。」
「狩頭?」
「逃ガサナイ。」
「えっ、アッ。」
カヨは偉山のセイに、相打ちさせる呪い種を植え付けた。男の肺で芽吹いたソレは血管に根を張り、葉を広げ、口中で呪いの花を咲かせる。
口を開く度に呪いが広がり、アチコチで相打ちが始まった。
高盛崖を登り、生きて多鹿に辿り着いたのは十四人。一人は潰れ、十二人が相打ち。
「ワシは、なにを。」
一人、生き残ったセイが呟く。
「ヴッ。」
押さえた胸を突き破ったのは、大きく育った闇の蔦。そのまま伸びてポポンと葉を広げ、死んだ男から闇を吸い取って育つ。
「ギャァァッ。」
植えられた闇が体を、頭を奪い取り実を結ぶ。その実が弾け、セイがバンと破れ裂けた。
その骸は雪のように融け、残らず消えて無くなる。