13-35 どんなに強く望んでも
幾人か消えたが、偉山の男が九尋山を横切った。
生き残りは狩頭、セイを含め十四人。
「煙だ。」
「多鹿か。」
「着いたんだ。」
煮炊きの煙を見た途端、元気になった。タイヘンな思いをしてココまで来たのだ。飛びっきり整った娘を連れ帰らないと。
そんな事を考えながら。
「山守だ、山守の民が来たぁ。」
多鹿の民が震え、戦慄く。
「違う、落ち着け。アレは山守では無い。偉山だ。」
「おっ、偉山ぁ?」
「女と子を隠せ! 里に入れるな。」
里長が叫ぶと皆、持っていた物を落として駆け出す。
ポロロン♪
「さぁて、何を弾こうカナ。」
大岩の洞でカヨが呟く。と、その時。
「来た。」
隠だ。でも、祝辺の守では無い。
「こんにちは。」
ジィィッ。
「恕の隠頭、投です。」
ひろ?
「恕は伊弉冉社の忍び。死を前にして真っ新になった女の隠が多く、人の世で働く事を許された隠忍びです。」
あぁ、聞いた事がある。どんな隠でも恕と喰谷山に入れば清められ、そのまま合繋谷の滝壺から根の国へ行けるとか何とか。
私が闇堕ちする前に。いいえ、止しましょう。考えても、どんなに強く望んでも時は戻らないから。
「そのまま、お聞きください。」
投が大岩に近づき、微笑む。
「山に入っていた多鹿の娘が一人、偉山の男に攫われました。」
エッ!
「逸散滝に向かっています。崖下から引き上げた舟に乗せ、流し落とす気なのでしょう。」
ニコッ。
偉山のセイは考えた。
この滝からは行けないが、横を攀じ登れば上へ行ける。身軽なのを選び、縄を腰に巻かせて上がらせよう。
多く攫いたい。けれど使っていた道は潰され、もう使えない。だから若いのを幾人か、と。
「逸散滝。」
カヨが呟き、琴を静かに置く。そのまま大穴の奥へ。勢い良く地の中を進み、攫われた娘を救いに向かう。
「お気をつけて。」
投が呟き、大岩に一礼してから偉山へ。
「放して! 嫌ぁっ。」
男の背をポカポカ叩いて抵抗するも、十一歳の幼女に出来る事は少ない。
「カヤ!」
追い払ったヤツらが、里から遠く離れるまで見張る。そのために後を追った長が叫ぶ。
「里長、助けてぇ。」
カヤは食べ物を探しに一人、山に入っていた。だから里に偉山の民が仕掛けた事、女と子が隠された事を知らなかったのだ。
母は嬰児を産んだばかり、父は果畔に行ってイナイ。
兄や姉は所帯を持ち、離れて暮らしていた。だからクルクル動けるのは、十一歳になって直ぐのカヤだけ。