13-34 気を抜くな
翌朝、木から下りたセイが見開く。
目の前に枝から落ち、冷たくなった仲間が転がっていたから。
「な、んで。」
獣なら兎も角、氷のように冷たい風に当てられ続け、凍えない人間など存在シナイだろう。
「残りは。」
生存者数を確認するには、目を覚まさせるしかナイ。
「朝だ、下りて来い!」
セイが大声を張り上げた。
高盛崖を登った者の半数が、その命を落とした。
ある者は木から落ち、ある者は幹に寄り掛かったまま、その短い生涯を閉じる。骸は日が昇りきり、暖かくなれば獣に食われるだろう。
生き残りの中には上手く歩けない者、手足の指が青白くなった者、痺れて泣き出す者も居た。けれど置いて行けない。
宥め賺して叱りつけ、崖の際を進む。
「わぁっ。」
崖下と山守から吹く風に翻弄され、フラフラしていた男が落下。
「アッ。」
片足が際を崩し、落ちた。蔓を持っていなければ、きっと体ごと。
「帰りたい帰りたい帰りたい。」
ブツブツぶつぶつ、ブツブツぶつぶつ。
セイだって許されるなら今すぐ、大きな声で叫びたい。けれどジッと耐え、黙って進む。
頭が何も言わないのだ。若いのがグチグチ言っても、右から左に抜けるダケ。
「気を抜くな! 歩き辛いのはココだけ。この先は開けている。」
狩頭、断言。
「おぅ。」
「そう、だな。」
「ココまで来たんだ。」
本当は逃げ出したい。けれど前向きに考え、口ではなく足を動かす。
どんな道も一歩、踏み出す事から始まる。だから怖くても苦しくても一歩、また一歩。
「はぁぁ、着いたぁ。」
委蛇と崖の間を抜けた先に、原っぱが広がっていた。と言っても狭いが。
「生きている。」
偉山を出て高盛崖を登り、縄住に着いた。共に喜び、笑ったアイツはココに居ない。
凍えて死んだり崖下に落ちたり、居なくなったりした。
「見張られている。行くぞ。」
委蛇山で暮らす人も、九尋山で暮らす人も争いを好まない。だから余所者が来た時、離れた場所からジッと様子を伺う。
もし怪しい動きをすれば弓に矢を番え、静かに放つ。
追い払うために。
「急げ。」
「は、ハイ。」
谷にフラフラと吸い込まれるように、立ち入ろうとした男が慌てて駆け出した。
「多鹿に着くまで気を抜くな。」
「ハイッ。」
委蛇と九尋の間には、白夜間に続く道がある。里も村も無いが、白夜間神が御坐す。
使わしめ雪花は九尾の白狐。
山守の呪い祝テイの父、セイは雪花とセリの倅、萩の子孫。多鹿のカヨが呪い種になった事、テイに呪いを掛けた事も知っている。けれど手も口も出さない。
が、偉山の男が白夜間に近づけば消す!