13-33 捨て置け
偉山の男が高盛崖を登り切った。
ゼェゼェと肩で息をしながら、他のを引っ張り上げている。
「着いたぁ。」
草の上にゴロンと横たわり、大の字になる者。ドカッと腰を下ろし、空を見上げる者。喉を潤すため、沢を探す者などイロイロ。
「離れるぞ。」
一行が居るのは縄住。
蛇と鳥、沢が多い林である。アッチでニョロニョロ、コッチでニョロニョロ。蛇好きにはタマラナイ。
「崖の際を行く。急げ。」
縄住から多鹿へ向かうなら委蛇と蛇見、白夜間、九尋の間を抜け、崖沿いに進めば良い。けれど見張られている。
近づけば矢の雨が降り、多く死ぬだろう。
高盛崖を登るダケでも減ったのに、また減ればドウなる。もう一人も減らせない。だから危ないが、際を行くしか無い。
委蛇さえ抜ければ、多鹿まで広いトコロを歩ける。と言っても林の中だが。
「はぁい。」
疲れ切っているが、逆らえば食べ物を貰えない。重い腰を上げ、ノロノロ歩き出す。
「日が暮れる前に、あの山の麓まで行くぞ。」
セイが指し示したのは委蛇。その麓は風の通り道で、気を抜けば崖下に飛ばされる。
セイは偉山の狩頭、風の通り道だと知っている。知っていて選んだのは、敵を欺くため。
危ないトコロに固まって、それも枝の上で幹に抱きついて夜を明かせば思うだろう。『コイツら、何も知らない』と。
「エッ、こんなトコロで夜を明かすんですか。」
若いのが叫ぶ。
「そうだ。好きな木に登り、枝の上で寝ろ。」
ガーン。
偉山の男は皆、己は何でも出来ると思っている。だから『出来ない』とか『信じられない』とか、言いたくても言えない。
山育ちだ。木登りなんてオテノモノなら良いが、違えばズルズル滑ってドスン。木に登ったら登ったで、鳥に突かれ涙目。
木の下で休めば獣、それも熊に襲われる。カモしれない。だから気合と根性で登り、幹に抱きついて『帰りたい』と呟いた。
「凍え死にたいのか。」
委蛇神の使わしめ、立氷は蝮の妖怪。毒に強く、変身能力に長けている。
「そのようですね。」
委蛇の社憑き、有益は蛇の妖怪。青大将で無毒なのに『毒蛇だ』と騒がれ、生きたまま裂かれた蛇が融合して妖怪化。立氷に鍛えられ、変身能力を得た。
「捨て置け。」
委蛇神、ニコリ。
「はい。」
立氷と有益が蛇に戻り、シュルシュルと山に入った。
日が暮れ、冷たい夜風がヒュゥっと抜ける。
「サ、ムイ。」
歯をカチカチ鳴らしながら、偉山の男たちが言う。
「チカラが、入らナイ。」
ガタガタ、ブルブル。
枝から落ちないように、幹にガシッと抱きつく。
夜明けまで耐えられるのか、誰にも分からない。けれど幾人かは思った。『凍え死ぬ』と。