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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
新生編
1186/1591

13-33 捨て置け


偉山おおやまの男が高盛崖たかもりがけを登り切った。


ゼェゼェと肩で息をしながら、他のを引っ張り上げている。




「着いたぁ。」


草の上にゴロンと横たわり、大の字になる者。ドカッと腰を下ろし、空を見上げる者。のどを潤すため、沢を探す者などイロイロ。


「離れるぞ。」


一行が居るのは縄住なずみ


蛇と鳥、沢が多い林である。アッチでニョロニョロ、コッチでニョロニョロ。蛇好きにはタマラナイ。


「崖のきわを行く。急げ。」


縄住から多鹿たかへ向かうなら委蛇いい蛇見たかみ白夜間はやま九尋くつねの間を抜け、崖沿いに進めば良い。けれど見張られている。


近づけば矢の雨が降り、多く死ぬだろう。



高盛崖を登るダケでも減ったのに、また減ればドウなる。もう一人も減らせない。だから危ないが、際を行くしか無い。


委蛇さえ抜ければ、多鹿まで広いトコロを歩ける。と言っても林の中だが。



「はぁい。」


疲れ切っているが、逆らえば食べ物を貰えない。重い腰を上げ、ノロノロ歩き出す。


「日が暮れる前に、あの山のふもとまで行くぞ。」


セイが指し示したのは委蛇。その麓は風の通り道で、気を抜けば崖下に飛ばされる。




セイは偉山の狩頭かりがしら、風の通り道だと知っている。知っていて選んだのは、敵をあざむくため。


危ないトコロに固まって、それも枝の上で幹に抱きついて夜を明かせば思うだろう。『コイツら、何も知らない』と。




「エッ、こんなトコロで夜を明かすんですか。」


若いのが叫ぶ。


「そうだ。好きな木に登り、枝の上で寝ろ。」


ガーン。



偉山の男は皆、おのは何でも出来ると思っている。だから『出来ない』とか『信じられない』とか、言いたくても言えない。



山育ちだ。木登りなんてオテノモノなら良いが、違えばズルズル滑ってドスン。木に登ったら登ったで、鳥につつかれ涙目。


木の下で休めば獣、それも熊に襲われる。カモしれない。だから気合と根性で登り、幹に抱きついて『帰りたい』と呟いた。






「凍え死にたいのか。」


委蛇神いいのかみの使わしめ、立氷たちひまむしの妖怪。毒に強く、変身能力にけている。


「そのようですね。」


委蛇の社憑き、有益あみは蛇の妖怪。青大将で無毒なのに『毒蛇だ』と騒がれ、生きたまま裂かれた蛇が融合して妖怪化。立氷に鍛えられ、変身能力を得た。


「捨て置け。」


委蛇神、ニコリ。


「はい。」


立氷と有益が蛇に戻り、シュルシュルと山に入った。






日が暮れ、冷たい夜風がヒュゥっと抜ける。



「サ、ムイ。」


歯をカチカチ鳴らしながら、偉山の男たちが言う。


「チカラが、入らナイ。」


ガタガタ、ブルブル。



枝から落ちないように、幹にガシッと抱きつく。


夜明けまで耐えられるのか、誰にも分からない。けれど幾人いくびとかは思った。『凍え死ぬ』と。


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