13-31 お任せください
とつ守が祝辺の守になったのは、霧山と霧山の民を守るため。
祝辺、いや山守が乱れようが滅ぼうが、崩れようが構わない。そう思っている。
もし山守が崩れれば、滑と坦の地にドドドと流れるだろう。山津波に押されれば霧山は、平良や噴水と繋がる。何れも大きく豊かだ。
迷い森も埋まるだろうが、あの森は強い。どうにでもナルさ。
「とつ守。少し、宜しいか。」
「はい、ひとつ守。」
ひとつ守には強い清めの力がある。もし山守に何か起こっても、闇に呑まれる前にサッと清めるだろう。
そんな隠の守が気に掛けている事の一つが、とつ守の動き。
「山守社の近くに潜む闇、呪い種では。」
はい、その通りデス。
「清めますか。」
鎮森の民が動きますヨ。
「・・・・・・いいえ。」
ひとつ守は考えた。闇の種が山守社の近くに潜むのは、いつか山守に禍を齎すため。もっと言えば、山守の民を根絶やしにする気なのだろうと。
山守神は『生贄も人柱も要らぬ』と仰せだ。なのに山守の民は『山守神が御求めだ』と言って、他から攫った人を嬲り殺す。
殺して楽しんでいる。
死に絶えても。そう思った事は一度、二度では済まない。
だからと言って、このまま見過ごすワケには。と思うのだが、どうにも踏ん切りがツカナイのだ。困った事に。
「とつ守。山越に分社が建てられ、巫が通っていると聞きました。真ですか。」
「はい、真です。」
ひとつ守に問われ、とつ守が微笑む。が、その目は冷たい。
「平良分社は祝辺、山越分社は山守。シッカリと支えてくれるなら、それで良いのでは。」
とつ守が言っている事は正しい。
祝辺を支えるのは平良、その平良を祝辺が守っている。山守を山越が支え、その山越を山守が守るなら、それで。
けれど、あの山守が山越を守るだろうか。
「山守は山守社が、社の司が人の長となり見張る。そう決まりました。任せましょう。」
「とつ守は、いや。」
「何ですか。」
「山越の巫は、山守を支えると思いますか。」
「思いません。巫の名はトモ、口寄せも出来ぬ娘です。山越の長、民も知っていて何も言わぬのは飾り。いや分社の守に祭り上げ、山守を欺くツモリなのでしょう。」
ひとつ守の眉がピクンと動いた。
分社の守。分社を守る一族の長が務め、里や村の長を兼ねる。
平良では禰宜が務めているが、見えないモノを見る目が無ければ難しい。
トモには見える目も、巫の力も祝の力も何も無い。そんな娘が、その子に、孫に務まるのか。
分社が荒れれば本社も荒れる。そうなった時、山守は。
「山守から闇が溢れる前に、祝辺が動くでしょう。違いますか、ひとつ守。」
とつ守に問われ、黙って頷く。
「迷わず、清めの力を揮います。」
「では、ひとつ守。山守に潜む闇、清めますか。」
「いいえ。とつ守に、お任せします。」
「はい、お任せください。」
ニコリ。