13-30 悪い顔
祝社は変わった。
人の守が霧雲山の統べる地の長に、隠の守が統べる地を守る事になったのは全て、はじまりの隠神で在らせられる大蛇神の御導き。
人の守は一人だが、隠の守が数多。一隠一隠の力が弱くても、力を合わせれば強くなる。障り無い。
「さて、お次は。」
山裾の地は落ち着いた。
三鶴、玉置、飯田、武田は牙を抜かれた。豊田、川北、東山、北山はキナ臭いが戦ドコロでは無い。どこかに仕掛ければ潰される。
「麓を調べるか。」
霧雲山系の麓で暮らせるのは獣だけ。なのだが、強い祝の力を持っていれば隠れ住める。かも知れない。
「いや、その前に。」
偉山だな。
山守の民は山越の民に任せよう。
あの巫に力は無いと、山越の民も知っている。山守の民を遠ざけるため、黙ると決めたのだ。口を挿む事は無い。
呪い祝、テイが消えた。残るは呪い種、多鹿のカヨ。カヨの望みは山守と山越の民を根絶やしにする事。
シッカリ伝えたから、山守社の者に手を出す事は無かろう。
「おや、懲りないねぇ。」
偉山の男が舟で、逸散滝が見える所まで来た。降りて高盛崖に近づき、死ぬ気で登るのだろう。
「獣道は、もう無い。」
潰したからネ。
逸散滝の辺りから高盛崖を登るには、白露湖まで行かなければナラナイ。
白露湖と珠の湖の間にある道は日ごと変わるので、探るダケで日が暮れる。見つけても鳥に突かれながら、上へ上へ。
ヌルッと滑れば真っ逆さま。
双見山の北からも登れるが、風が強くて飛ばされる。
望月湖と霧の湖の間にある道を探り当て、崖を登った先は迷い森。祝の力が無ければ通り抜けられない。
残るは逸散滝と流連滝の間。
こちらを通れるのは天霧山の雲、獣。恕と靄山隠にも登れるが、人には難しかろう。
「・・・・・・なぜ奪う。」
偉山の男、山守の民も腐っている。
恕の隠頭、投は偉山の生まれ。
末娘が生まれて直ぐ、他の女が男を産んだ。契った男に裏切られ、嬲られ、生きたまま喰谷山に放り込まれて死んだ。
多鹿の織り人、カヨ。
祝の力など無いのに山守の民に連れ去られ、近くの森で穢された。山守の獄に入れられてからも穢され、死んでも腐るまで穢され続けた。
闇堕ちし、呪い種になるのは当たり前。
「今、向かっても同じか。」
カヨなら多鹿まで、スイスイ行ける。攫われる娘には悪いが一度、多鹿から出てもらおう。
偉山のに『多鹿に手を出せば殺される』とでも叫ばせ、相打ちさせる呪い種を植えさせれば良い。上手く運べば山守の民にも。
「とつ守が悪い顔してるぅ。」
ふたつ守が首だけ出し、ニッ。
「悪い顔だぁ。」
みつ守も首だけ出し、ニカッ。
「はぁ。また、ですか。」
とつ守と目が合い、パチクリ。
「逃っげろぉ。」
嬉しそうに駆けだす。も、とっ捕まりシュン。
「社の中で、走ってはイケマセン。」
「はぁい。」
二隠、揃ってニッコリ。とつ守、思わず溜息。