13-29 見張られている
とつ守の頭の中で呪い種、多鹿のカヨが歌う『ティ小のうた』が響く。
どう伝えるか考えて悩んでも、口に出さなければ伝わらない。そんな、うた。
「ふっ。」
琴を習おうカナ。
「とつ守、あの。」
「八よ。祝辺の守として、これからドウ生きる。」
八は隠の守になって初めて、とつ守が優しく微笑むのを見た。と思った。同時に恐ろしくなり、闇に呑まれる。
「こ、こは。」
ゴォー。
「く、熊ぁっ。」
食われる。生きたまま食われる、食い千切られる。腹を、腸をグチャグチャと。
嫌だ、もう嫌だ。祝辺に戻りたい、帰りたい。
喰隠に放り込まれるような事、確かに致しました。申し訳ありません。もう決して、決して致しません。誓います。ですから、お願いします。
ここから、喰隠から出してください。
「八、聞け。」
「とつ守ぃ。」
涙と鼻水をダラダラ流し、とつ守に縋る八。その姿を見ていた、ひとつ守は思った。とつ守が恐ろしいと。
闇に呑まれた八が聞いたのは、熊の鳴き声では無い。風が獄を抜ける音だ。そう、八が落とされたのは喰隠ではナク祝辺の獄。
とつ守に力添えしたのは光で空間を仕切り、封鎖する力を持つ、いつ守。人や物を他に移す力を生まれ持つヨリ、生き物の考えを読む力を持つスミの三隠。
「力を求めるなら強くなれ。他から得よう、奪おうと考えるな。」
「ハイ、仰せのままに。」
「キチンと言の葉にせよ。」
「私、八は力を他から得よう。奪おうと考えません。」
鼻水を垂らしたまま、キリッ。
「そうか。」
「ハイッ。」
八がズビッと、鼻を啜る。その後ろでスミがコクンと頷いた。真らしい。
「・・・・・・生きて、戻れた。」
自室で目覚めた八が、ポツリと呟く。
「夢?」
「違いまぁす。」
ふたつ守がニコリ。
対象に闇を植え付けて支配する力を持つ隠の守は、ひとつ守の言いつけダケは守る過激派。
「おや、目が覚めましたか。」
ひとつ守が微笑む。
「ハッ、という事は。」
夢では無い。とつ守に睨まれ、祝辺の獄に落とされた。
「八よ、もう止しなさい。祝社の継ぐ子は弱くても、他より強い力を生まれ持っている。人の守が弱くても、隠の守が支えれば良い。違うか。」
「仰る通りで御座います。」
八は部屋の片隅に、鎮森にしか咲かない花が活けられている事に気付いた。
「とっ、とっ。」
とつ守に見張られている。
「水を持ってきましたヨ。さぁ、お飲みなさい。」
毒? 違います。清水ですヨ。