13-28 蛇に睨まれた蛙
八は十三代、祝辺の守。不安を増幅させ、心を操る闇の力を持つ。八男だったのでヤと名付けられた。
継ぐ子の能力低下を嘆き、密かに他から強い祝の力を生まれ持つ子を攫おうと画策するも、大蛇神の特命で動いていた嫌呂と悪鬼により発覚。
ひとつ守から謹慎を言い渡されたのに従わず、むつ守の力で仕置されてから喰隠に放り込まれエンドレス処刑。
精神崩壊の後、祝社に戻され回復。とつ守に絶対服従を誓った。の、だが。
「とつ守なんぞ、ケッケッケ。」
持って生まれた性質は、そう簡単に変わらない。
「狙うは鎮野。いや、その前に大泉。」
「はぁ、八よ。」
「ゲッ、ひとつ守。」
上司に向かって『ゲッ』って、どうなのさ。
八は祝辺を、霧雲山の統べる地を守るために、強い祝の力を持つ者を集めようとしている。ワケでは無い。
己の思い描く通りに動く守を、一隠でも多く揃えたいダケ。
むつ守に仕置され、喰隠に放り込まれた事でチョッピリ反省。良山と、大蛇神の愛し子には手を出さぬと誓う。
こちらの誓いを破る気は無い。
「いつ、どこに狐が」
「ヒッ。」
嫌呂も悪鬼も隠の世、流山で暮らしている。常に祝辺を見張っているワケでは無い。けれど狐の目は其処彼処に。
なんて事もナイのだが、八を震えあがらせるには十分だったようで。
「モウジワゲェ、アリマゼェン。」
喰隠で味わった地獄の責め苦を思い出し、ガタガタ震えながら小さくなった。
「分かれば宜しい。」
ひとつ守が呟く。
「甘いですね。」
「とつ守。」
『とつ守』と聞き、八の肩がビクッ。
あの地獄から救い出してくれたのは、『ひとつ守』では無く『とつ守』だ。他の守とイロイロ違うが、鎮森の民に寄り添う隠の守は元、霧山社の継ぐ子。
祝辺の守になった今も霧山神の使わしめ、ホッホが見守っている。
「八。」
「ヒャイ。」
「私の許し無く、祝の力を持つ者に近づくな。」
・・・・・・。
「どうした。」
八が、蛇に睨まれた蛙のように動かなくなった。
「ゲコッ。何デも、ありマせん。」
とつ守は強い祝の力を持つ子が、山裾の地から霧雲山に入った事を知っている。けれど、その子が親から力を受け継いだ娘、良村のタエである事は知らない。
祝辺は、祝辺の守は忍びに見張られている。
野比の木菟、野呂の鷲の目。加えて天霧山の雲。人ダケでも厄介なのに隠忍び、恕と靄山隠からも警戒されているのだ。
ほんの少しでも気を抜けば、隠の守でも消されるだろう。
祝辺の守でも探れない。という事は、はじまりの隠神で在らせられる大蛇神が深く係わって御出でだ。
良村は多くの里や村、国とも結ぶ強い村。忍びとも結んでいるから、コチラの動きなど筒抜け。
「で、何を企んでいる。」
「ニャにも。・・・・・・その、引きます!」
両手をつき、額をゴンと打つけて叫ぶ。