13-26 どんなに叫んでも、助けを求めても
燠山社の三人と山長、狩頭、山頭が戦に備え、山のアチコチにイロイロ仕掛けた。
「ギャッ。」
飛んできた矢が目に刺さり、ドタッ。
「アッ。」
足を取られて逆さ吊り、プラァン。
「ワッ。」
落とし穴の底に刺さった杭に貫かれ、グタッ。
燠山は炭焼きが盛んなので、手入れが行き届いている。近くに聳える、人が暮らす山の多くが戦嫌い。
好戦的なのは偉山の男だけ。
集谷、小柄、深山の民も戦嫌い。
だから山守と偉山の民に仕掛けられても追い払えるよう、予め備えているのだ。
「ナッ。」
ドタッ。
「エッ。」
バサッ。
「ヒッ。」
グタッ。
燠山には先見の力を生まれ持つ祝、精が居る。御婆と呼ばれるホド年を重ね、とっても物知り。
心の声が聞こえる禰宜、榮も居る。水を操れる祝、淑は血流も止められるのだ。
加えて山を知り尽くしている三人の男。山長のツキ、狩頭の奠、山頭の禋も力を尽くす。となれば、控え目に言って無敵。
偉山の寄せ集めに勝ち目など無い。
「山に入る前に片付きましたね。」
燠山神の使わしめ、絓がニコリ。
「そうですね。」
社憑き火花、脱力。
手付かずの林でバタバタ死んだ、偉山の男たち。その骸を片付けるのは獣。涎を垂らす熊さんズ、のっそノッソと近づいた。
「ギャァッ。」
逆さ吊りプランず、絶叫。
「ヲォォ。」 ウマソウ。
爪をシャキンと出し、幹に括りつけられている縄をシュパッと切った。
ドサッと落ちた獲物たち、頭がボォっとして動けない。それでも這うように走り、逃げる。
「あっ。」
ドタン。
「たす、けて。」
夏の熊は腹ペコ。血の匂いに大興奮し、ワラワラと群がる。
腹を食い破られ、腸をモグモグ。ビシャッと血潮が飛ぶ。
頭からガブリと食われれば直ぐに死ねるが、腹を食われれば長引く。
アッチでもコッチでもグチャグチャ、ビチャビチャ。どんなに叫んでも、助けを求めても誰も来ない。
「まだか、まだ戻らんのか。」
偉山の長が叫ぶ。
「はい。」
としか言えない。
「長、あの山は。燠山には強い狩り人と樵が揃っています。一人も戻らないのは、きっと。・・・・・・皆、殺されたのでしょう。」
臣の一人が進言。
「ナニッ! いや、そうか。」
一瞬イラッとしたが、腕組みして考え込んだ。
「若いのを選んで集めろ。」