13-25 笑い上戸
燠山は偉山の南、集谷の西に聳える山。
橡が多く炭焼きが盛んで、狩り人も樵も強い。頂には燠山社と里が在る。
里には祝の力を生まれ持つ人が、田畑を作って暮らしている。山中の里や村からイロイロ貰えるし、狩りや釣りだって上手い。
継ぐ子は祝の力を生まれ持ち、親と離れて暮らす事を選んだ幼児。
他と違うからと虐げられる事は無いが、どうしても生き難さを感じてしまう。だから四つになると皆、己で『継ぐ子になりたい』と親に訴えるのだ。
「フッ。」
燠山の社の司、精には先見の力がある。偉山の男がドッと押し寄せ、ドタドタ倒れる様を見て思わず、鼻で笑ってしまったのだ。
「御婆、何を見たのですか。」
心の声が聞こえる、禰宜の榮が問うた。
「言わずとも、ふふっ。」
社の司は『精』だが里の皆、親しみを込めて『御婆』と呼ぶ。その御婆、ほんの少し偉山嫌い。
「またですか。」
水を操る力を持つ、祝の淑が呟く。
偉山の男も、山守の民と似たようなモノ。山守の民は男でも女でも構わず攫うが、偉山の男が攫うのは女。男を攫うのは戦に備えるため。
「偉山神が人を嫌い為さる御気持ち、良く解ります。」
燠山神が御頭を抱え為さった。
「山に入る前に、多く死ぬでしょう。」
火花が指先にポッと火の玉を出し、ニコリ。
「燃やすでナイぞ。」
絓に咎められ、シュンとする。
燠山神は火の神で在らせられる。
燠山で暮らす人たちは信心深く、供え物を欠かさない。因って霧雲山系すべて見通せる千里眼を御持ち遊ばす。
使わしめ絓は山越で生まれた、赤目白羽の烏。
火を絶やさない燠山が火山だと思い、火口に飛び込もうと入山。勘違いと気付き、精魂尽き果てていたら燠山神に優しくされて号泣。
社憑きから使わしめに出世した。
社憑きの火花は火の粉の妖怪。体は小さいが火力は強く、湿度が高くても活動できる。
「チリッとしちゃうカモ。」
火の粉なので。
「イケマセン。」
絓の赤い目がキラリと光り火花、大慌て。慌てて背筋を伸ばし、ニコリと微笑む。
「フフッ、ククククク。」
燠山神は笑い上戸で在らせられる。
絓と火花の遣り取りが可笑しくてオカシクテ堪らないのか、肩を揺らして御出でだ。
「皆、良く集まってくれた。」
燠山に暮らす人の長で元、狩り人で強面。山長のツキが、ニゴッと笑う。
燠山に暮らす人の長は、社の司では無い。山中にいる里長や村長の中から選ばれマス。
「御婆が見たなら、なぁ。」
燠山にいる狩人の長で弓の名手。燠山の狩頭、奠がニヤリ。
「で、どうする。」
燠山にいる樵の長で槍の名手。山頭の禋が問うた。
「偉山からドッと、死にたがりが押し寄せる。と御婆から聞いた。」
ドドン!
「ツキよ、顔が。」
「オッと、すまない。」