13-22 隠の私には
偉山はワリと大きいので、多くの人が暮らしている。けれど最近、その数が減った。
理由は山守同様、『生贄に選ばれた』と言って嬲り殺すから。
「祟さま。」
投が膝をつき、首を垂れる。
「そう畏まらんでも良い。」
「はい。」
ゆっくり顔を上げた。
「なぜココへ。」
「山越で赩さまより『偉山を見張れ』と。多鹿が狙われていると伺い、調べに参りました。」
「そうか。」
山守には呪い種になった多鹿の娘、カヨが潜むと聞く。
山守の呪い祝、テイが消えて無くなっても残ったのは山守、山越も滅ぼそうと考えているのだろう。
山守の民は望んでも、祝辺に移り住めない。だから山越を目指す。
山越に移り住んだ人の多くが、その貧しさに天を仰ぐ。けれど山守より良いと考え、静かに暮らすとか何とか。
「祟さま。この地で死んだ女、子の墓を掘ってくださいませんか。隠の私には、どうする事も出来ず。」
「あぁ、そうだな。」
祟は憑物、蛇神で在らせられる。他の妖怪より力が強く、尾でポンと地を叩くダケでハイ、この通り。
炭化したアレコレを浮かせ、骸を墓穴へ静かに納めた。ソッと土を戻し、若木の枝を刺す。
「ありがとうございます。」
投が泣きそうな顔をして、祟に微笑んだ。
「ウム。」
死んだ人たちは隠になり、偉山社に集まった。その全てを清めてから根の国に送り届け、涙する。
なぜ偉山の男は女を、子を酷く扱うのか。女から生まれたのに、その女を敬わない。虐げ苦しめ、言い掛かりをつけ嬲り殺す。笑いながら。
「投、偉山の男が西望川を下った。烈川を上がり、高盛崖を登るだろう。狙いは多鹿。」
「はい、向かいます。」
一礼してから森を抜け、谷に飛び込んだ。川沿いをタッタと進み、男たちが乗った舟を探す。
「見つけた。」
投がピィっと口笛を吹くと、アチコチから隠が現れる。その多くは犬。
「あの舟を。」
「ワゥ。アォーン。」 ハイ。アノフネヲ、カエセ。
「アォーン。」 ワカリマシタ。
隠になった犬は、偉山の男に殺された。
四肢を縛られ、川に投げ込まれた犬。生まれたばかりの仔犬を目の前で、生きたまま裂かれた親犬。
飼い主を殺されて直ぐ、森の奥に生える木に縛り付けられ、熊に食い殺された犬。
飼い主は皆、優しい人だった。
仔犬の時から育ててもらい、撫でられ褒められ慈しまれ、死ぬまで傍に。そう思っていたのに、偉山の男に殺された。
助けたかった。なのに助けられず、死んで隠になる。
隠は何をしても、どんな事になっても隠。闇堕ちしても隠は隠。だから使わしめが出来ない事をする。
妖怪に出来ない事が隠には出来るから、飼い主は守れなかったケド戦う。男に苦しめられる女を、優しい人を救う。
「ナッ、何だ。わぁっ。」
横からドンと突かれ、舟が引っ繰り返った。
「助けっ。」
川底に引き摺り込まれ、溺れ死ぬ。