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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
新生編
1175/1592

13-22 隠の私には


偉山おおやまはワリと大きいので、多くの人が暮らしている。けれど最近、その数が減った。


理由は山守同様、『生贄いけにえに選ばれた』と言ってなぶり殺すから。




すいさま。」


ほうが膝をつき、こうべを垂れる。


「そうかしこまらんでも良い。」


「はい。」


ゆっくり顔を上げた。


「なぜココへ。」


「山越でかくさまより『偉山を見張れ』と。多鹿たかが狙われているとうかがい、調べに参りました。」


「そうか。」




山守には呪い種になった多鹿の娘、カヨが潜むと聞く。


山守の呪い祝、テイが消えて無くなっても残ったのは山守、山越も滅ぼそうと考えているのだろう。



山守の民は望んでも、祝辺はふりべに移り住めない。だから山越を目指す。


山越に移り住んだ人の多くが、その貧しさに天をあおぐ。けれど山守より良いと考え、静かに暮らすとか何とか。




「祟さま。この地で死んだ女、子の墓を掘ってくださいませんか。おにの私には、どうする事も出来ず。」


「あぁ、そうだな。」




祟は憑物、蛇神で在らせられる。他の妖怪より力が強く、尾でポンと地を叩くダケでハイ、この通り。


炭化したアレコレを浮かせ、むくろを墓穴へ静かに納めた。ソッと土を戻し、若木の枝を刺す。




「ありがとうございます。」


投が泣きそうな顔をして、祟に微笑んだ。


「ウム。」




死んだ人たちは隠になり、偉山社に集まった。その全てを清めてから根の国に送り届け、涙する。


なぜ偉山の男は女を、子を酷く扱うのか。女から生まれたのに、その女をうやまわない。虐げ苦しめ、言い掛かりをつけ嬲り殺す。笑いながら。




「投、偉山の男が西望川にもちがわを下った。烈川たけがわを上がり、高盛崖たかもりがけを登るだろう。狙いは多鹿。」


「はい、向かいます。」



一礼してから森を抜け、谷に飛び込んだ。川沿いをタッタと進み、男たちが乗った舟を探す。






「見つけた。」


投がピィっと口笛を吹くと、アチコチから隠が現れる。その多くは犬。


「あの舟を。」


「ワゥ。アォーン。」 ハイ。アノフネヲ、カエセ。


「アォーン。」 ワカリマシタ。






隠になった犬は、偉山の男に殺された。


四肢を縛られ、川に投げ込まれた犬。生まれたばかりの仔犬を目の前で、生きたまま裂かれた親犬。


飼い主を殺されて直ぐ、森の奥に生える木に縛り付けられ、熊に食い殺された犬。



飼い主は皆、優しい人だった。


仔犬の時から育ててもらい、撫でられ褒められ慈しまれ、死ぬまでかたわらに。そう思っていたのに、偉山の男に殺された。


助けたかった。なのに助けられず、死んで隠になる。



隠は何をしても、どんな事になっても隠。闇堕ちしても隠は隠。だから使わしめが出来ない事をする。


妖怪に出来ない事が隠には出来るから、飼い主は守れなかったケド戦う。男に苦しめられる女を、優しい人を救う。






「ナッ、何だ。わぁっ。」


横からドンと突かれ、舟が引っ繰り返った。


「助けっ。」


川底に引き摺り込まれ、溺れ死ぬ。


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