13-20 偉山を見張れ
山守は数多の山がギュッと集まって聳えた。高盛崖の上に在るのが山守の御山、と考えられている。
山ごとに村や里が集まっているが、平地には隠れ里も多い。その一つが迫山の里。
泡沫山、鳴山、固山、常見山、蛇見山に囲まれた平地にある隠れ里で温泉がある。
固山と鳴山の間を抜ければ行けるが、忙川を渡って山岨を上がらなければ辿り着けない。
多鹿から九尋山をグルッと回り、白夜間を抜けて谷を進まなければ入れない里だ。谷が四つ、山は五つ在るので逃げられる。取り返せる。
「迫は強い。だから先ず、熱吹に仕掛けるだろう。」
熱吹だって強いが、迫ホドでは無い。
「・・・・・・確か嚴山には先見、先読の力を生まれ持つ祝が居たな。」
嚴山の社の司に先見、禰宜に先読の力。祝には魂を探す闇の力が有る。継ぐ子には水や風、土の力を生まれ持つ者が多い。
分社の守に先読、先見の力を生まれ持つ者が多くなったのは、嚴美の事が有ってから。
先見の力を生まれ持つウリが攫われ、嚴山がブルンと揺れる。多くの狩り人が山守の民と戦ったが、ウリを取り返す事は出来なかった。
最後まで諦めず、深追いしたのがマツ。
「恕の隠頭が、この地で何をしている。」
「赩さま。」
投が慌てて膝をつく。
「良い、話せ。」
赩は山守神の使わしめ、シズエ専属の使い烏。赤目の烏妖怪で、白子だが妖力で羽色を黒くしている。
山越烏では無いがシズエに拾われ成鳥。生前、毎朝『妖怪になりたい』と願い死後、隠では無く妖怪になった。
シズエの命を受け、山越分社を監視中。
山越に分社が建てられた事で、もう一つ変わった。山越の隠烏が拠点を山越の森から、分社の横に生えている大木に移動したのだ。
他の烏は今まで通り、山越の森で暮らしている。
「ホウ、で。」
赩が人の姿に化け、腕組み。その目は鋭い。
「山守の民が戦を仕掛け、他の地から人を攫うのでは。そう考え、嚴山にと。」
「嚴山。」
恕は、いや投はドコまで調べた。ウリの娘リツが父、マツと共に嚴山に戻った事を知っているなら。
「・・・・・・はい。嚴山には先読や先見の力を生まれ持つ人が多く、分社の守を務める御婆に頼めば誰か、見える人に頼んでくれるのでは。そう考えました。」
何だ、気の所為か。
「嚴山は守りが固い。山守が仕掛けても負ける。」
「はい。山守が仕掛けるなら隠れ里、熱吹か迫だと思います。」
鋭いな。が投よ、甘いぞ。
嚴山に戻ったマツはリツを御婆に会わせ、分社の守に据えた。ウリが残してくれた宝を、娘を山の外に出さずに守るため。
己が死んでも困らぬよう、しっかり考えて。
リツにはウリと同じ、先見の力が有る。
山守の民が攻め込むのを見て、あの子は父と伯父に伝えた。直ぐに迫と熱吹に使いが出され、戻ったと聞く。
「投、偉山を見張れ。高盛崖の上にある里や村で、他と結ばず残る隠れ里は一つ。多鹿だ。」
ハッ! あの里は狩り人が多いが、他と結ぶ事を恐れている。
「今から向かい、調べます。では。」
キリッ。
一礼してから立ち去り、サッと崖から飛び降りた。