13-19 飾りだったのね
山守の民は歪んでいる。他の誰かを虐げなければ、嬲らなければ生きてゆけない。そんなバケモノが揃っているのだ。
村も里も、特に隠れ里の民は『山守』と聞くダケで怯えた。
「話には聞いていたが。」
こりゃヒドイ。
『山越に巫が現れた』と聞き、『山守神に捧げよう』とか『贄を御求めだ』と言って大喜び。
山守神は『生贄も人柱も要らぬ』と仰せだ。
なのに山守の民は聞き入れず、殺し続ける。そんなのが押し寄せればドウなるか、考えるマデも無い。
「また来たのか。」
山越分社の守、トモが鼻で笑う。
「山越の巫よ。山守神のぉっ。」
ジタバタ、ジタバタ。
「谷に落とせ。」
「ハッ。」
慣れた手つきで猿轡を填め、両手両足を縛り、山守から来た使いを担ぐ。で、ポイッ。
「山守の民って、多いの?」
交代で分社に詰める若い衆に問う。
「さぁ、どうでしょう。」
山越で生まれ育った男の多くは、山越から出ない。出るのは狩り人や樵くらい。
ドスドスドスドス。
「山越のトモだな。来い! 山守神が生贄を御求めだ。」
またか。
「やっちゃって。」
「はい。」
「ナッ、何を。」
不機嫌で人を寄せ付けないトモは八歳。そんな幼児に見下され、猿轡を填められた男は知らない。
両手足を縛られ、ポイされる事を。
「フゴムゴ、フムゴォ。」 オイコラ、ハナセェ。
ジッタンバッタン。
「おぉい、手を貸してくれ。」
「また来たのか。」
山守の使いを崖下にポイして戻った若者が、呆れながら呟く。
「頭を叩いて黙らせるか。」
サラッと恐ろしい事を言い出した。
「ナニそれ、楽しそう。」
トモの目がキラキラ輝く。
「トモさま、イケマセン。トミさまに叱られますよ。」
「じゃぁ、パコンで引きます。」
と言いながらゴンと思い切り、拳骨を食らわした。
プッ、ナニあの子。山越に現れた巫って、飾りだったのね。
山越の長は山守に母や姉を奪われ、恨みを抱いていた。だから扱い易い子を巫に据えて、山守を誘き出したのかしら。
まぁ良いわ。
山守の民が減れば、それだけ殺される人も減る。今の長が生きているウチは、山越が荒れる事は無いでしょう。
「祝辺の守は知っていて、黙っているのかしら。」
とつ守は知っている。でも人の守、ひとつ守は。
「山守にも考える頭を持つ人が居る。山越から攫うのを諦めて他の村、いいえ隠れ里を狙うわ。ココから近く、連れ去れるのは。」
滑川沿いなら迫と熱吹。列川沿いなら多鹿、崖を上れば果畔も危ない。