13-18 とても気になるが、今は
リツから話を聞いたマツは急ぎ、迫と熱吹に使いを出すようウイに伝えた。
迫は嚴山の東、熱吹は嚴山の北西に在る隠れ里。出で湯があるので見晴らしが良い。
「何と! 直ぐに守りを固めます。ありがとうございました。」
高盛崖の上には、多くの隠れ里がある。その全てが戦えるワケでは無い。
「ソレにしても、ハァ。山守の民も偉山の民も、どうして人を攫おうとするのか。」
迫の長が嘆く。
「偉山・・・・・・あぁ。喰谷山の東にある、大きな山ですね。」
「あの山は男が女を物のように扱う、とても酷い山です。女しか産めないと嬲り、喰谷山に捨ててから後添えを迎えるんですよ。」
「エッ。」
ウリを心から愛するマツはリツのため、トミを後添えに迎えた。
トミとの間にトモが生まれたが、リツと同じ様に慈しんだ。トミにはソレとなく、いつか別れて暮らすと伝えて。
その時、困らないようにシッカリ蓄えていた。
ウリとは死に別れたが、契るとは死ぬまで添う事。マツはソウ考えている。嬰児のために迎えた後添えを嬲るなど、マツには考えられない。
だから見開き、驚く。
「偉山の男はね、言の葉が通じないんだ。だからマツ。もし偉山のに会ったら話し合わず、サッサと逃げなさい。」
「はい、長。ありがとうございます。」
リツは嚴山分社の守、嚴山から出る事は無い。嚴山は守りが固いから、他のは近づけないし遠ざける。それでも心しておこう。
「♪ 怒りは心を締め付け 周りを歪めて見せるから いつでも頭を使ってマコト 見抜き生き続けよう どんな事になったって 時は戻らない♪」
大岩の洞の中、ノリノリで歌うカヨ。鎮森の民もピョンピョン跳ねている。
「おや、この歌は確か。」
伊弉冉社の忍。恕の隠頭、投が立ち止まった。
「ティ小。」
声が違う、琴の音も。だからティ小では無い。けれどナゼ山守、鎮森から『ティ小のうた』が聞こえるのだろう。
「ん。」
木木に行く手を阻まれた。
「あの歌を聞きに行きたいダケだよ。通しておくれ。」
ザワザワ。ザワザワザワ。
「おや、珍しい。」
「とつ守。」
投の目が鋭くなった。
「山守に何か?」
心当たりが有り過ぎて困るが、聞いておこう。
「山越に仕掛け、数を減らしたそうで。」
「はい。」
ニッコリ。
「祝辺の考えですか。」
「いいえ、違います。山越に山越分社が建ちましてね。分社の守がシッカリ、務めを果たしているのです。」
うふふ。
「そう、ですか。」
ティ小のうたを歌っているのが誰、いや何なのか。とても気になるが、今は急ぎ確かめねば。
「では何れ、また。」