13-16 しっかり守るよ
アワは嚴山にある嚴原、狩り人の村で生まれた。親も、その親も狩り犬。
一匹だけ小さかったので鳥の餌にされかけ、親犬に救い出された。その結果、山中で熊と遭遇。
「ワン、ワワン。」 コイヌタチヨ、アマエヲステテツヨクナレ。
「キャン。」 ハイッ。
・・・・・・無いわ。犬にも向き、不向きってのが有るんだよ。狩り犬の仔だからって、良い狩り犬になれると思わないで。
リツの犬だモン、しっかり守るよ。でも『兎を狩れ』とか『鳥の首に噛みつけ』とか、そんなコト出来ません。
見て、このフワフワな体。皆より小さいでしょう?
「アワ、いらっしゃい。」
「キャン。」 ハァイ、タダイマ。
「ゥワン。」 シッカリナ。
「キャン。」 オマカセクダサイ。
群れから離れ、リツの元へタッタと駆ける。
アワは訓練内容に不満が有るダケで、訓練が嫌なワケでは無い。のだが、その目はキラッキラ。
「嚴山分社へ行くわよ。」
「キャン。」 ハァイ。
嚴山社は嚴山の頂に在るが、分社は中腹に在る。
管理するのは嚴原や嚴美など、麓から中腹にある村人。祝の力を持つ者が通いで担う。
嚴美の守は高齢だったので、リツが御役を引き継いだ。
嚴山分社には隠の分社の守、ミナが居る。祝の力を失った隠で、生きていた時は先読の力を持っていた。
社憑きの耳立は元、逸れ犲の隠。弱って動けなかった時、ミナに救われた事で分社に居着いた。
「リツ、お待ち。」
「はい、御婆さま。」
嚴美の長老で前、分社の守は『見えないモノを見る目』を生まれ持つ元、狩り人。高齢ゆえ、リツを後任に指名。
弓の名手で、村の子に弓を教えて暮らしている。
「イヅチを連れて行きなさい。」
イヅチは御婆と共に現役を引退した元、狩り犬。老犬だが迫力満点。
「ヴァウ。」 ヨロシク。
キラン。
「分社には隠の社憑きと、分社の守が居なさる。」
「はい。」
「嚴山に分社の守をドウコウしようと考える、そんな命知らずはオラヌ。がな、リツ。」
ゴクリ。
「熊は違う。だから決して、火を絶やすな。」
「ハイッ。」
あら、嚴美の長に娘なんて居たかしら。・・・・・・違うわ。ウリ、きっとウリの娘よ。
「ミナ?」
「耳立、見て。ウリの娘だわ。」
「ウリ。あぁ、山守に攫われた。」
「そう・・・・・・。私、何にも出来なくて。」
「ミナ、我らは隠。生きた人には触れられぬ。」
ミナも耳立も隠。
山守の民がドッと押し寄せ、娘や子を次から次に攫った時、闇堕ちしそうになった。
心の底から『妖怪になりたい』と願ったが、今も隠のまま。