13-15 愛妻との約束
嚴山に入って直ぐ、マツがリツを己の後ろに隠した。
狩り人は娘の顔を見て驚く。嚴美の長、ウイに良く似ていたから。
「おはよう、リツ。」
「おはようございます、ウイ伯父さん。」
ニコッ。
「・・・・・・ウリ。」
ウィは末の妹、ウリを溺愛していた。ウリは死んでしまったが忘れ形見、リツは生きている。
「えっ。」
「すまない。リツはウリにソックリだから、つい。」
ウリとマツは五歳の時、山守の民に攫われた。共に攫われた娘や子が居たが、生き残ったのはウリとマツだけ。
二人は山守の獄に入れられる前に逃げ出し、鎮森に身を潜めた。
明るいウチは木の上で、日が暮れるとトコトコ移動。暗くなる前に木に登り、夜明けを待つ。
サッと下りて水を汲み、食べ物を採って木に登る。日が暮れるとトコトコ移動。その繰り返し。
五つの子が無事、山越に辿り着けたのは偶然では無い。ウリの母方の祖母が祝で、先見の力を生まれ持っていたから。
娘に先見の力が受け継がれると知ったウリは、思い切ってマツに全てを話した。嬰児に祝の力が有ると知られれば、きっと取り上げられてしまう。そう考えて。
「そんなに似ているの?」
リツが首を傾げた。
「あぁ、良く似ている。」
「父さん、おかえりなさい。」
「ただいま、リツ。」
マツは嚴美の狩り人の倅で、母は弓使い。三つで山に入り、四つから弓を射はじめ、五つの時いは狩った獣を捌いていた。
そんなマツが捕まったのは、ウリを助けようとしたから。
嚴美に戻ったマツはリツを守るため、ウイに全てを話した。
ウィに祝の力は無いが、ウリに先見の力が有った事は知っている。山越では隠し通せたが、この先ドウなるか分からない。
だから嚴美の長でウリの兄、ウイを後見に選んだのだ。
リツは先見の力を持っていたウリと、強い狩り人であるマツの娘。村長の姪で前、狩頭の孫である。
リツを傷つける愚か者はイナイが、マツは嚴美で認められるよう、いろいろ努めている。愛妻、ウリとの約束を守るために。
ゴソゴソ。
「キュゥン。」 ココカラダシテ。
マツが担いでいた袋がモゾモゾ動き、中から鳴き声が聞こえた。
「あら、犬かしら。」
リツ、興味津津。
「罠に掛かってね、吊られてたんだ。離れたトコロに親犬が倒れていたから、熊に襲われたんだろう。」
「まぁ、可哀想に。父さん。私、この犬を飼うわ。良いかしら。」
「良いが、育たないカモしれないゾ。」
「それでも飼うわ。」
「そうか、分かった。」
マツがリツの頬に触れ、優しく微笑む。
「名はドウする。」
「そうねぇ。アワ、粟の実と同じ色だもの。ね、アワ。」
「クゥン。」 アワネェ。
「うふふ、気に入ってくれたのね。」
「キャン。」 マッ、イッカ。
仔犬のアワは小さいが、腹が据わっていた。一匹で生きるのは難しい事、リツが他の人と違う事にも気付いている。だから愛嬌を振りまく。
リツの頬をペロンと舐め、尾をフリフリしながら。