13-14 あの長になら任せられる
夢に出たのが山守神かドウカは別として、トモは山越分社の巫になった。
その話はアッと言う間に広まり、山守から使いが来る。
「は? ナニ言ってんの。生贄になるのはアンタ。この男の手足を縛り、谷に落とせ!」
「はい。」
「ヒッ、何をする。放せ。はなっ。」
サッと猿轡を填められ、手を後ろで縛られ、足も縛られ動けない。
トモは気に入らないヤツを、片っ端から処分しようとした。けれど思い通りナラナイ。山越の民は長に守られ、トモの言いなりにはナラナイから。
けれど相手が山守の民なら? 思い通りポンポン消せる。
山越の民は山守の民を嫌っている。だから相手が山守なら迷わず縛り上げ、ポイっと谷に落とす。トモ同様、罪悪感など抱かない。
山守の長は性懲りも無くポンポン送り込み、トモを嬲り殺すのを楽しみにしていた。が、幾ら待っても使者が戻らない。
その結果、山守から若い男が激減。
「どうなっている。トモだったか、その娘。まだ八つだろう。」
「はい。その、どうも山越の民に守られているようで。」
正確には山守の民しかポイポイ出来ず、常にイライラしてマス。
トモは気に入らない女を、片っ端から殺そうとした。けれど、誰も言う事を聞かない。苦言を呈する年寄を殺そうとした。けれど、思い通りにナラナイ。
目が合った子を、言い付けを守らない男を、村長も殺そうとした。けれど何をドウ言っても同じ。だぁれも動かない。
イライラし過ぎて発狂寸前。そんな時、山守から使いが来る。するとドウなる?
何を言っても『はいはい』としか言わない連中が、『はい』と言って動いてくれる。ポイポイしてくれる。
結果、山守から人が来る度、適当な事を言って処分するようになった。
「・・・・・・つまんない。」
山守の長は考えを変えた。民が、男が減り過ぎて困った事になったから。
「ハァ。」
山越は山守と違い、祝辺から助けられる事は無い。だから男も女も、子も年寄も良く働く。トモを除いて。
「ハッハァ、人が虫のようだ。」
崖上から村を見下ろし、ゲス発言。
山越の民は気付いている。トモには祝の力も、巫の力も無い。
けれど神か、社憑きか。人では無い何かがトモを選び、その枕元に石を置いた。
その石は確かに、崖の平地に落ちていた石とピッタリ合った。だから全てが偽りだとは思わない。言われた通りに柞の大木の横に分社を建て、トモに守らせている。
その方がイロイロ都合が良いから。
トモは口が達者な怠け者で、何か言い付けても誰かに押し付け働かない。
となると初めから他の誰かに頼んだ方が楽。トモはトモで何もせず、分社を守っていれば良いので楽。
双方に利点が有る。
「選んでおいてナンだけど。」
大木の陰からピョコッと顔を出し、トモを観察していたカヨ。瞬きしてから地に潜った。
狙い通り、山守の民が減っている。山越の民は減ってイナイが、まぁヨシとしよう。
山越の長は山守を恨んでいる。だから生贄とか人柱と聞くダケでスッと冷たい目になり、迷わずポイポイ捨てるのだ。
「あの長になら任せられる。」