13-13 やっと出たのか
マツは幼いリツのため、トミと再婚した。けれど今でもウリを深く、深く愛している。
その遺髪を紐で縛り、袋に入れて持ち歩くホド。
「ただいま。リツ、落ち着いて聞いてほしい。」
帰宅するなり、マツが真剣な顔で語りだす。
リツは何となく父が己を、山越の民から守っている。そう感じていた。
狩り人になったのも、いつか他の山へ引っ越すため。そう思ってたので『あぁ、そうか』と。
「いつ出るの?」
「今からだ。」
「えっ。・・・・・・はい、急いで荷を纏めます。」
一瞬、驚いた。けれど直ぐに頭を切り替える。トモが言っていた事が真なら、己は生贄にされるだろう。
偽りでも、山守の民に知られれば同じ事。
山菜採り用の籠に必要最低限の物を詰め、保存食と水筒も入れる。
「出来ました。」
「よし、行こう。」
皆が朝餉を食べている間、山越の村を出た。
マツは狩り人。ドコをドウ通れば安全に下山できるか、良く知っている。とはいえ十二歳の娘を連れて、険しい山道を下るのだ。十二分に気を付け、ユックリ進んだ。
夕刻、迫の里に到着。
迫は嚴山の東、山越の北にある隠れ里。温泉が在るのでユックリ休めるが里人は皆、山守と山越の民を酷く嫌っている。
「ごめんください。」
マツはリツを連れ、村長の家を訪ねた。迫の民はマツが嚴山の出だと知っているので、誰も何も言わない。
犬も吠えず、尾をフリフリ。
「はい。おや、マツじゃないか。どうした。ん、その娘。・・・・・・そうか、やっと出たのか。」
リツはウリに良く似ている。
ウリは父親似、嚴美の長であるウイも父親似。つまりリツとウイはソックリさん。
「疲れたろう、入りなさい。」
「ありがとうございます。」
その頃、山越では。
「リツめ! 許さん。」
トモが大暴れ。
トモが言った通り、崖の平地に石の欠片が落ちていた。
トモの枕元に在ったという石とピッタリ合ったので、柞の大木の横に分社を建てる事になった。がソレだけ。
「トモ、静かになさい。」
「アタシはね、神に選ばれた祝なの! エライの。ねぇ、分かる?」
「はぁ。あのね、トモ。祝の力が無い事は、皆の前で確かめたでしょう。」
「そ、れは・・・・・・そうだけど。何で父さんも居ないのよ! リツが連れ出したんだ。」
いやいや、その逆。
「トモ、良く聞きなさい。父さんはね、リツを守るために山越を出たの。もう戻らないし、会えないわ。」
「ナンデ。」
「ナンデって、当たり前でしょう。もし他の誰かが『神は生贄としてトモ、あの女を求めている。手足を縛り、崖下へ落とせ』なんて言われたら、私はトモを連れて山越を出るわ。」
パチクリ。
「・・・・・・父さんはアタシより、あの女を選んだの? アタシ、父さんに捨てられたってコト?」
「ねぇトモ。リツは穏やかで優しい、良い姉さんだったでしょう。嫌な事をしたり言ったりしない、良い姉さんだったでしょう。なのに、どうして嫌うの。」
「だからよ! 目障り。嫌い。イライラする。」