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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
新生編
1165/1590

13-12 三人で帰るんだ


身支度みじたくもせず、バタバタ外に出たトモ。大きく息を吸い込み、フゥっと吐いた。そして叫ぶ。


「アタシはね、神に選ばれた娘なのよ!」




トモは八歳。マツとトミの末娘で思い込みが激しく、父の連れ子であるリツに敵対心を抱いている。十二歳のリツは面倒見が良く、山越キッズに大人気。


マツもトミも口には出さないが、リツを頼りにしていた。




「・・・・・・え?」


マツ、トミ、リツ、揃ってパチクリ。


「トモ、どんな夢を見たんだい。」


山越のおさが声を掛け、微笑んだ。




山越の村は小さく、滝から流れる川沿いに在る。


朝早くから水汲みや何やで、村人が集まるのだ。そんな所に顔を洗わず、ボサバサの髪でトモが駆け付けたのだ。長じゃなくても声を掛ける。




「シッカリなさい、トモ。」


トミが思わず溜息をき、目を見てしかった。


「トモ、夢はね。寝ている時に見るモノだよ。」


マツが優しくさとす。


「どいて! 長、聞いて。神から、山守神やまもりのかみから崖に分社わけやしろを建てるよう、御告げがあったのよ。」


声を掛けようとしたリツを押し退け、トモが村長に飛びつき、言い切った。


「フッ、フフフフフフフ。」


勝った。リツに、あの女に勝った。私は選ばれた娘。何をしても、何を言っても認められる。許される。


「神は生贄いけにえとしてリツ、あの女を求めている。手足を縛り、崖下へ落とせ。」


トモがリツを指差し、胸を張った。その顔は醜く歪み、見た者は『あぁ、またか』と思う。






「何を言い出すかと思えば。」


長は父の代に山守から移住。伯母、母、従姉妹、実姉まで生贄にされ、失っている。


「ナッ、偽りなんかじゃない。アタシは」


「はいはい。トミ、トモを黙らせなさい。」


トモがリツを嫌っている事は皆、良く知っている。それがねたみ、そねみである事も。


「はい、長。トモ、コッチに来なさい。」


「えっ、何で。まことなのに! 信じてよ。」


「来なさい。」


パコンと側頭部をはたかれ、耳をビッと引っ張られた。そのままズルズル、村外れに連れて行かれる。その後ろ姿を見送り、長がフゥっと息を吐いた。


「マツ、少し良いか。」


「はい、長。リツ、先に戻っていなさい。」


「はい、父さん。」



リツが家に入るのを見届け、長とマツがユックリと歩き出す。けれど、その表情は険しい。






「マツ。山守社やまもりのやしろは祝を選ばん、そう決めた。山守の民は『かんなぎを』と言ったが、山守はめかんなぎおかんなぎも置かん。だからな、もしトモの事が山守の誰かに知られれば、ヤツらは喜んで押し寄せる。多くの命が奪われるだろう。」


「長。私はウリに『リツを守る』と、そう誓いました。なのでリツを、ウリの兄に託そうと思います。」




長はウリとマツが嚴山いずやまの出だと知っている、唯一の人である。


マツはウリを守れなかった、救えなかった事を酷く悔い『偉くなろう、力を付けよう』と決めた。




「マツ。直ぐに荷をまとめ、リツと共に山越を出なさい。生まれた地で暮らすんだ。トミとトモは山越の生まれ、私が見守ろう。」


「長・・・・・・。」


「良いか、マツ。ウリは死んだがリツは生きている。ウリの髪を持って、三人で帰るんだ。迷ってはイケナイ。騒ぎになる前に、解るね。」


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