13-11 踊れ
山越へ向かうカヨを見送り、シズエが山守社に戻る。
「フゥ。」
シズエは誰かを嬲り殺すためダケに、人柱や生贄を求める山守と山越の民を苦苦しく思っていた。
「時は掛かるでしょうが。」
カヨが片付けてくれるなら、その力になろう。
「なぁに、シズエ。」
山守神がピョコッと御顔を出され、パチクリ為さる。
「ウチの酒が、やまと一になるのはイツかな、と。」
霧雲山銘酒『霧雲』、神神に大好評。
「酒の味はね、水で決まるのよ。」
ニコッ。
カヨは山守に祝を選ばせる事、巫や覡を据える事も諦め、山越に巫を据える事にした。
山守と山越の民を少しづつ減らすため、思い込みの激しい娘を選ぶ。
「見つけた。」
年の近い姉を見下しながらも、その全てに嫉妬する哀れな娘。己が秀でていると思い込み、周りを巻き込み従わせようとする。
「アレにしよう。」
娘の名はトモ。父マツは狩り人、母トミは畑人。腹違いの姉、リツは織り人で四歳違い。
思い込みが激しく好戦的なトモと違って、リツは実母譲りの穏やかな性格。手先も器用。
リツの両親、ウリとマツは嚴山の嚴美出身。幼少期、山守の民に纏めて攫われ、山守から山越に逃げた。
子の足では嚴山へ行けない。だから大きくなるまで山越で過ごし、いつか嚴美へ帰ろう。そう誓った。
時流れ、やっと授かった愛児と三人、幸せに暮らしていたのに、その幸せを壊したのが山守の民。
ウリはリツが一歳の時、山守の生贄に選ばれ死亡。リツが三歳の時トミと再婚したが、マツは今もウリを愛している。
「夢に出るか。」
山越に社は無いので神懸り。巫覡が神懸りになって霊魂を呼び寄せ、その意思を伝え告げる『口寄せ』をさせればソレで良い。
「山越に巫が現れれば、きっと山守から人が来る。」
神霊を寄せるのを神口、生霊を寄せるのを生口、死霊を寄せるのを死口。哀れな娘を唆し、人柱や生贄を出させるだろう。
「が、させぬ。」
選ぶのは山守か山越の民。
山守と山越が接している崖。北を向いているが、山越の地を見下ろす地が一つ、平たいトコロが在る。
狭いのが気になるが、隣には小さな滝。生えている木を幾らか切れば、小さな家を建てられるだろう。
寝起きは山越、口寄せは崖の上。そうして分ければ山越の民、山守の民も行き来し易いハズ。
柞の大木は残そう。大きなドンクリが生るし、目当てに良い。
「うん、あの地にしよう。」
今、生きている山守や山越の民に恨みは無い。無いが昔、山守の民に殺された。他にも同じ思いを、苦しみを味わった者は多い。
「踊れ。」
割った石の片方をポイと投げ、ニヤリ。
その夜、カヨは割った石を持ってトモの夢枕に立った。そして『崖の平地、柞の大木の横に山越分社を建て、守れ』と告げる。
翌朝トモは、枕元に在った石の欠片を手にし、ほくそ笑む。カヨが山守神だと思い込み、己が選ばれた娘だと。姉より秀でていると思い込んで。