13-9 知らなかった
多鹿のカヨが、洞の奥で琴を弾く。その音色に心躍らせる、鎮森の愉快な仲間たち。
「♪ 翼があれば飛べると思う いつでも空へ飛べると思う だけど私は鳥じゃナイから 飛べないけれど諦めない♪」
多鹿で幸せに暮らしていたのに、イキナリ現れた山守の民に攫われた。『祝の力を隠し持っている』と言われ、問答無用で連れ去られた。
祝の力など無いのに。
山守の全てを呪いながら死に、闇落ち。呪い種になった。
白夜間神の使わしめ、雪花に『闇より薄く、水より濃い何か』と表現されたが、良く分からない。
願いは一つ。祝辺深部と山守を行き来しながら、山守断種計画を実行する事。山守と山越の民が居る限り、霧雲山の統べる地は乱れ続ける。
それがタカの考え。
「♪ いつか あの空へ行こう 夢は叶えるためにあるから♪」
ティ小のうたを聞くまで、ずっと一人ぼっち。一度でも憎しみを抱けば、どんなに願っても消えてくれない。
ずっと、ずっと苦しみ続ける。
逃げたくても逃げられない。忘れたくても忘れられない。そんなモノに絡み取られ、身動きが取れない。
どす黒い闇の中、声が涸れるまで叫んでも一人きり。
何も変わらず誰も来ず、闇に溺れて沈むダケ。
カヨにはティ小のうた、琴の音が光だった。ティ小にもカヨにも翼は無い。鳥じゃナイから飛べないけれど、琴を弾きながら歌うコトは出来る。
弾く事が、うたう事が救いになると知り、嬉しくなった。だから琴を弾く。うたを歌う。
誰も聞いてイナクても、求められなくても構わない。
「ん! この感じ。」
祝辺の守。
「強いから名乗れない、隠の守に違い無い。」
ピリピリするから清め、闇、光、先読も違う。残るは、とつ守。
愛用の琴を静かに置き、洞の奥から地に潜る。
とつ守が何を考えているのかサッパリ分からないが、こちらかから姿を現すのは良くない。そんな気がする。
「こんにちは。」
とつ守が大岩の洞を覗き込んだ。
「おや、何か有りますね。」
と言いながら、洞の奥から琴を取り出した。
「ホウ、良く出来ている。」
ポロロンと奏でてニッコリ。
ペシッ。ペシペシッ。
「おや、怒らせてしまったね。」
鎮森の良い子たちにペシペシされ、とつ守が驚く。微笑みながら琴を、洞の中へソッと戻した。
「元に戻しましたよ。」
サワサワ。サワサワ。
「そうですか。」
???
「私は祝辺の隠、とつ守です。呪い種さん。これから話すのは多鹿に伝わる、古い話です。お聞きください。」
エッ、多鹿の昔話って。
「山守の全てを呪いながら死んだカヨの骸は腐って、悪い臭いがするまで穢され続けた。闇落ちしたのも、呪い種になったのも当たり前。だからカヨは根の国へ行かず、人の世に留まって山守の祝に憑いた。そう伝え、受け継がれていると聞きました。」
知らなかった。全て、全て伝わり、残っていたなんて。
「私はね、カヨさまの力になりたいのです。」