13-7 遺作
カヨがセッセと、大岩の洞で琴を作っている。その様子をジッと見つめるモヤモヤたち。
「・・・・・・!」 オイ、ミタカ!
「・・・・・・?」 エッ、ナニヲ?
山守社は鎮森の外れに建っている。つまりカヨが暮らしている大岩、鎮森の中にアリマス。
鎮森の民は皆、山守の民に殺された隠。その隠が融合して生まれた妖怪。
モヤモヤは根の国で裁きを受けたが、生まれ育った地に戻れない隠の子。闇堕ちしたが隠の守に清められ、静かに暮らしてる。
「・・・・・・?」 エッ、ナニナニ?
「・・・・・・?」 タノシイコト?
山守の民に差し出されたり、捧げられる子の多くは親無し。山守の獄に放り込まれ、その日を怯えながら待ち続ける。
水も食べ物も、ほんの少ししか貰えない。
やっと出られたと思ったら、体を板や地面に張り広げられ、杭などを打ち付けられて殺される。手足をキツク縛られ、生きたまま大穴に落され埋められる。
痛い。苦しい。誰か助けて!
幾ら叫んでも助けは来ない。小さい子が嬲られているのに、楽しそうに見ている。小さい子が羽交い絞めにされて踠くのに、這い上がろうと踠くのに誰も動かない。
止めようとシナイ。
何のために生まれて来たのだろう。こうして殺されるため? 苦しむため? 生贄が、人柱が居なければ困る何かが有るの? それ、なぁに。
「・・・・・・!」 タノシイコトダッテ!
「・・・・・・!」 ワァイ、ヤッタァ!
周りの事が何となく判るようになってから死ぬまで、ずっとずぅっと辛かった。親が生きていた時は違った、のかな。
覚えて無いや。
親が居る子は良いよね。優しくギュッとされて、頭を撫でてもらってさ。お腹いっぱい食べられなくても、何か食べる物を貰える。
山に入って獣に怯えながら、食べられる物を探さなくても良い。
数日後、蜘蛛の妖怪に足場用の糸を貰ったカヨ。作り上げた琴に張り、ポロロンと奏でた。
「うん、イイね。」
元は織り人、手先が器用。
「さぁて、何を歌おうか。」
歌うのはティ小の持ち歌。
「・・・・・・。」 ワクワクガトマラナイ。
「・・・・・・。」 マダカナ、マダカナ。
鎮森の民は鎮森から出られない。出れば闇堕ちして、祝辺の獄に入れられてしまう。
森の外から来る忍びは多いが、話し掛けてくれるのは『影』と『靄山隠』。偶にしか来ないけど、『恕』も笑いかけてくれる。
好きに動けるカヨは呪い種。とつ守から『近づかないように』と、強く言われている。だから遠くからソッと、ジッと見つめる事にした。
ポロロン。
「・・・・・!」 ミンナ、ハジマルヨ!
「♪闇の中一人うた歌うよ ティ小は何時だって 夢を忘れない♪」
カヨが選んだのはティ小、永遠の最新曲。
モヤモヤたちは頭を左右に動かし、楽しそうに聞いている。その様子を嬉しそうに眺める、隠や妖怪たち。犬や鳥など、獣もウットリ。
ティ小は消えて無くなった。けれど遺作は、これからも残るだろう。
ティ小を知らない隠や妖怪が、ティ小のファンから聞いて気に入り、歌い継ぐから。