13-6 贈り物に困ったら
洞を訪れた呪い種は明日の骸に近づき、水と花を手向けて死を悼んだ。
笹の葉で作られた器は水が漏れぬよう、シッカリと組まれている。蕺の花を選んだのは強いからか、薬になる草だからか。
「呪い種になった娘の名はカヨ。多鹿の人は皆、今でも山守を避けています。整った顔をした子は、どんなに幼くても里から出しません。育っても、決して一人では出しません。」
見つかれば攫われ、カヨと同じ扱いを受けるから。
「山守社では祝を選ばなくなったと聞きます。けれど、山越では?」
投に問われ、サクが黙り込む。
「山守の民は考えるでしょうね。『祝を選ばないなら、巫を』と。」
タンが目を、スッと細めた。
「山守社がソレを認めるとは・・・・・・。」
サクが目を逸らす。
他の社の事だ。社の司や禰宜、祝にも分からない。
流離山の洞から山守の洞に戻ったカヨ。一息ついてからユックリ身を乗り出し、這いながら鎮森に入った。
「うん、コレにしよう。」
中が空ろになった倒木を見つけ、トントン叩いてニッコリうきうき。
「糸は蚕の隠に、頼めるかな?」
首を傾げ、パチクリ。
「袋なら地蜘蛛だけど、欲しいのは糸だし。」
鬼蜘蛛に頼もうかな。夕方に張った丸い網、朝になると畳むよね。
考え事をしながらも、周囲への警戒を怠らない。ある意味、忍び向き。
敵の気配を感じると空洞に入って遣り過ごし、ピョコッと顔を出して安全確認。それからヒョイと担いで、スタこらサッサと逃げる。
少し開けた場所に来た。
枯れ枝を集めて火を熾し、木をテイッと煙突のように立てる。内部を焼かないと腐敗が止まらず、組み上げても朽ちてしまうから。
「もう良いかな。」
木を火から離し、覗き込む。
「うん、良いネ。」
満遍なく焼けていた。
「冷ましている間に。」
キョロキョロ。
「蜘蛛さぁん、ネバネバしない糸くださぁい。」
口元に手をあて、呼び掛ける。
蜘蛛の糸、全てがネバネバするワケでは無い。粘らない糸を足場用に出せる。カヨが欲しいのは足場用の糸なので、『ネバネバしない糸』が欲しいと伝えた。
「朝まで待つか。」
冷めた木を、大岩の洞に持ち帰る。その後ろ姿を見送った蜘蛛が、糸を回収しながら上へ。
「どう思う。」
矢弦社の忍び、『雲』が蜘蛛の妖怪に問うた。
「山守の呪い祝、テイと同じモノを感じます。同じ呪いでしょう。けれど悪い感じは、しませんね。」
そう言うと、新鮮な蜥蜴の尻尾にガブリ。幸せそうな顔をしてモグモグ。
蜘蛛は肉食性。毒液を注入して弱らせた獲物を、口から出した酵素で口外消化。ポンプ式の胃で吸収する。がソレは生きている蜘蛛、隠の蜘蛛の話。
妖怪化すると歯が生えて、チュウチュウしなくても美味しく食べられるのだ。
雲は何時でも、隠や妖怪が喜ぶ物を贈る。
集められた情報は共有され、次代に受け継ぐ。その結果『贈り物に困ったら相談したい忍び』、堂堂の第一位に選ばれる。のだが、それは別の御話。