13-5 消えて無くなっても、残るもの
狩山、山在の巫が死んだ。山守の呪い祝、テイの闇に体を乗っ取られて。その骸は今も、流離山の洞にある。
あの洞にはテイの闇、ティ小が潜んでいた。
ティ小は琴を弾きながら歌うのが好きで、洞に集まる闇や隠たちを歌で癒していたのに・・・・・・。分ティに取り込まれ、消えてしまう。
その死を悼む者が今も、あの洞を訪れる。
ある闇は、見えない涙を流す。ある隠は、骸から穢れを祓う。ある闇はティ小の琴に触れ、ポロン。ある隠はティ小の歌をうたい、涙を流す。
「消えて無くなっても、残るものが有る。」
流離神が一言。
「そうですね。」
使わしめ、ヒオが小さく頷いた。
ヒオは蜏の隠が融合して妖怪化。変幻自在で闇耐性が有るが、衝撃には弱い。ティ小のファンで、演奏会が開かれる度に行っていた。
山守の呪い祝、テイ闇から生まれたのだ。始めは警戒していたが、その歌声を聞いて考えを改める。それからだ、見守り始めたのは。
キョロキョロしてから洞から出て、倒木を見つけては覗き込む。中が空になったモノを切り出し、ウキウキと持ち帰って琴を作る。
作っては鳴らし作っては鳴らし、思い描く音が出るまで二年。
「ヒオ、琴を奏でておくれ。」
「はい。」
巨大化したヒオ。スッと腰掛け琴を膝に置き、小き絃をジャンじゃジャン、ジャジャジャ、じゃんジャジャン。
「♪ 暗い洞の中 見上げる光は アタシを狂わせる♪」
確かにティ小の持ち歌だけど・・・・・・選んだ曲はバラードではなく、ロックでした。
ティ小は山守の呪い祝、テイから切り取られた闇。
喰谷山の切ティ、梅の湖の小ティ、望月湖の分ティからは禍禍しいモノが感じられたが、ティ小にはソレが全く無い。
琴を弾くのは好き、歌うのが好き。その声には呪いでは無く、癒しの力が秘められていた。
驚き為さったが『そんな事が有るのか』と御思い遊ばし、洞に留まる事を許し為さる。
「恕の隠さま、この花を供えた呪いの類。どのようなモノなのか御教えください。」
サクが投に頭を下げた。
「山守の祝だったテイに憑き、呪い祝に変えたモノ。と言えば、御分かりいただけますか。」
「呪い種だと。」
「はい。」
ナンテコッタイ! いや待て待て。禍を齎さぬ呪いが、呪い種が有るのか。いや有るんだろう。
「靄山隠は、呪い種に。」
「気付かなんだ。」
擦れ違ったら判る、だろうか。いや、気付かず進むだろう。というコトは。
「人、女ですか。」
「はい。」
多鹿に押し掛け、織り人を攫った。祝の力など無いのに『祝の力を隠し持っている』と言って。なのに森の中で取っ換え引っ換え。
山守に連れ帰ってもソレは続き、憎しみを抱かせ殺す。
死んで呪い種となり山守を、山守の民を根絶やしにするため留まる事を選んだ娘は今、何を思っているのだろう。
山守の民は酷い。神の御心を和らげる生贄、人柱を求めながら奪う事を、嬲る事を楽しんでいる。
それが嫌で山越に移り住んだ人も、暫くすると求めだす。
他の誰かが苦しみながら死ぬ姿を見る事でしか、『生きている』と思えないバケモノ。それが山守、山越の民。