13-3 ティ小の琴
テイの闇が消えて無くなった。もうソロソロ、山守の祝を選んでも良さそうなのに。
「居なくても困らない、のかな。」
はい、困りません。
「でも、私は困るのよ。」
テイから切り取られた闇は多いが、集まって一つになった闇は少ない。その一つ、ティ小には悪い事をしたと思っている。
呪い種になった多鹿の織り人、カヨはティ小の大ファンだった。幻の新曲を聞く事が出来た、どす黒い闇の塊がカヨ。
カヨにとってティ小は『辛くて苦しくて、逃げ出したいのに逃げられない』。そんな思いを感じ取ってくれた唯一の存在。光そのもの。
「♪暗い洞の中 見上げる光は アタシを狂わせる♪」
やっと見つけた光を失い、膝を抱えて震えるしかない。もっと、もっと聞きたかった。けれど分ティに取り込まれて・・・・・・。
「そうだ、あの琴。」
ティ小の愛用品、あの洞に残されているカモしれない。
山守社の北にある、大岩の洞からピョコッと頭を出し、キョロキョロしながら安全確認。
「ヨシ。」
洞の奥から地層の割れ目に出て、坦の地下を流れるように移動。沼垂を過ぎた辺りから流離山に入り、滑川沿いにある洞へ向かう。
「・・・・・・酷い。」
狩山にある山在社の巫、明日の骸が残されていた。
「あっ。」
ティ小の琴に、明日の血がベッタリ付いている。
「洗い流しても良いのかな。」
糸は使えない。けれど張り直せば使える、と思う。
「清めの水って、そうだ。」
流離川の源は清めの泉。滑川と交わる前なら、きっと清らな力が残っている。
「消えちゃう?」
ティ小の琴を、血塗れのまま置いておくよりズッと良い。迷うな!
明日の骸に手を合わせ、死後の幸福を祈った。それからティ小の琴を持ち上げ・・・・・・られなくて困る。
「そうね、わかったわ。」
ティ小は琴を、この娘に贈ったんだ。私に出来るのは、そう。水を汲んで花を摘んで、ここに供える。それだけ。
「待ってて。」
洞を出て身を低くして水際に移動。笹の葉で器を作り、滑川の水を汲む。
日が当たらない湿った地に蕺の花が咲き乱れていたので、一つだけ摘んで戻った。匂いが強いケド、白くて小さな花はカワイイ。
「お待たせ。」
明日の骸の頭の近くに水と花を供え、静かに手を合わせる。その目には涙が浮かんでいた。思い出したのだ、昔を。
明日の魂は流離の社の司に清められ、根の国へ旅立った。骸を葬らなかったのは、大祓の儀を執り行うと決まったから。
山在社へ問い合わせたのがキッカケ。
明日の前に体を乗っ取られた山在の畑人、サトの倅セイ。その骸は使わしめによる清めの壁で囲まれ、国つ神の御力により清められた。
その骸は髪の毛一本残さず、消えて無くなる。
明日の骸も同じように清めなければ、その魂が根の国へ旅立っても何れ、流離山に禍を齎すだろう。それを防ぐには強い大祓を執り行わなければイケナイ。
捨て置かれているワケではアリマセン!