13-2 翼が有れば
予知した未来は変わる。
他国が窮しようが滅びようがドウなろうが、アンリエヌに敵意や悪意を向けぬならソレで良い。仕掛けられれば消す、攻め込まれれば消す。
アンリエヌに禍を齎すなら国ごと潰し、必要なら断種して絶滅させる。それダケの事。
「消滅させたか。」
山守の呪い祝、テイの闇が消えて無くなった。闇を植え付けられたキマイラも浄化され、危険を察知した元凶は逃亡。
「呪いの源になったが、あの娘は山守の被害者。」
鍵となる少女が野呂山に入り、少年と出会った。共に大泉山へ転居。鎮野や良山との遣り取り、雲井が山守や祝辺から守っている。盗聴、盗撮も不可能。
「見るか。」
化け王が予知の『才』を発動。
はじまりの一族で『才』を持っているのは化け王、カーだけ。他は全て収集済。
生き残りは正妃から生まれた第一王子エド、第二王子ジャド、第二王女ウィの三人。第三王子ベンの愚行により全身の血を抜かれ、王城地下空間で服役中。
エドは棺に入れられ釘付けされ、逆さにしてから壁に塗り込められた。ジャドとウィは一人づつ布で巻かれ、別の柱に塗り込められる。
王子王女は今でもギャァギャァ煩いが、処刑の一部始終を見せられた新たな一族は化け王に平伏。今のトコロ問題ナシ。
中の東国、その真中にある霧雲山の統べる地は平和だ。山裾の地には好戦的なのも居るが、揃って社の支配下に置かれている。
祝辺の人の守が長となり、隠の守が本気を出した。諍いは有るが戦は無く、他の地にも良い影響を与えている。
手を出さなくても良さそうだが、どう変わるか分からない。
隠の世が開き、落ち着きを取り戻した。山守社から祝が選ばれなくなり、呪い種は残ったが呪い祝は消滅。
鳥の谷に築いた砦に近づくのは乱雲山、和みの村長コウだけ。『洞の奥に何かが在る」と気付いているが、壁に触れるダケで何もシナイ。
神の化身か何かだと思っているのか、ブランに黙礼する敬虔な男だ。
「ブラン。」
「はい、カー様。」
「来月から、霧雲山の統べる地へ。」
「はい。」
遠方へ派遣されるが好待遇。
連休が取れればアンリエヌに一時帰国できるし、交代要員だって居る。鳥でなければ務まらないので、『翼が有れば行けるのに』と思う獣がチラホラ。
正直に言えばアンリエヌから、もっと言えばカー王から離れたくない。けれど王命、仰せに従います。キリリ。
ザワザワ、ザワワッ。ザワザワ、ソヨヨ。
「そうか、分かった。」
草木の声を聞き、とつ守が微笑む。
「ありがとう。」
鳥の谷にブラン様が戻られた。
化け王は霧雲山の南を好きで、見張り為さるワケでは無い。化け王と同じ色の髪と目を持つ、青い衣を着て犬を従えていた、あの人の願いだろう。
・・・・・・御隠れになって、どれだけ経った。
春、山吹の花が咲くと思い出す。『ずっと変わらないで』と仰って、ニッコリされる御姿を。優しい御声を。
「行くか。」
山守への監視を強化する事にした。
「とつ守?」
みつ守が戸惑うのは当然である。とつ守の背後から声を掛けようとしたダケなのに、ヒョイと荷を小脇に抱えるように運ばれているのだから。