13-1 多鹿
新章スタート!
祝の力など無いのに山守の民に攫われ、言えないような事をされたカヨ。死んでも骸が朽ちるまで続き、呪い種となった。その結果、多くの命が奪われる。
山守の祝だったテイを呪い、闇堕ち隠へ。
歴代山守の祝に憑き、支配するバケモノになったテイ。切り取られた闇は多いが、動けるようになった闇は少ない。その一つがティ小で、光そのものだった。
新生編、はじまります。
はじまりの隠神、大蛇の社は二つ。隠の世に和山社、人の世に大蛇社。
使わしめチュウは牙滝社に残りウタ、二代目 牙滝神に仕えている。つまり現在、大蛇に使わしめはイナイ。
「ワン。」 オロチィ。
大蛇の愛し子、マルの愛犬マルコが吠える。
トコトコと良村の舟寄せ場に近づき、森川で巨体を伸ばす大蛇をジィっと見つめた。
「何だ、マルコ。」
大蛇が水中で片目を開き、優しい声で一言。
「沼垂社から使いが来たよ。石積みの社で待ってもらってる。」
マルコは良村の犬だが、マルや大蛇と心で話す事が出来る。訓練中は離れるが、マルの側で過ごす事が多い。
「そうか、わかった。ありがとう。」
「どういたしまして。」
用が済んだので、タッタと急いで良村へ。
山守の呪い祝、テイの闇が消えて無くなった? アレは。いや待て。
「寿よ、呪い種はドウなった。」
「祝辺の奥から山守へ向かったようです。」
「水筋、いや地割れを抜けたか。」
「はい。祝辺の獄が歪んで出来たのか、地が割れた時のモノなのか分かりません。」
白夜間神の使わしめ、雪花の狐妖術。寿の犬妖術と続けて放ったが、取り逃がしてしまった。
獄中は清められても、亀裂の先までは届かない。
「・・・・・・多鹿の生まれ、だったか。」
「はい。」
逸散滝と九尋の間にある隠れ里、多鹿。呪い種となったカヨの悲劇が、里の女たちによって伝承されている。
姿形が整った人が多く、里から出る時は狩り人か樵に守ってもらう。それでも狙われるのだから、どうしようもない。
多鹿神は狩りの神。使わしめキョンはチョッピリ気が多い牡鹿の隠。草食だが肉食系で、狙った獲物は逃さない。
思いが通じる事は稀だが種族、年齢を問わず異性を大切に扱うので、人気はある。
「山守の大崖を下りて滑川を越えるか、烈川を進めば行き着くからな。」
「あの角で貫いても、隠に生き物は止められません。」
「山守、山越も控えるようになったと聞く。」
「はい。その代わり偉山の男ども、男たちが多鹿の女を狙うようになったそうです。」
話を聞きに行った時、立派な角に人影を剝がしたようなモノが幾つも刺さっていてビックリ。
思わず吠えて、祓ってしまった。
「『偉山の男は山守より酷い』と、聞いた覚えがある。」
「はい、その通りです。」
偉山のが熊なら、山守のは仔犬。といったトコロでしょうか。
祝の力など無いのに多鹿から攫われ、山守で死んだ。呪い種を祝に植え付けたのは、テイに妖狐の血が流れていると気付いたから。
テイを呪い祝に変えたのは、山守の民を殺すため。人柱や生贄にして、タップリ苦しませるためだろう。
「カヨは今、どこに。」
「山守社の北にある、大岩の洞に潜んで居ります。」
「とつ守は。」
「そろそろ動き出すでしょう。」
カヨが潜む大岩は隠処に最適。祀られているので、外からは分かり難い。