12-71 暗がりに鬼を繋ぐ
祝辺の獄に入った雪花は本ティ、寿はティ闇が隔離されている檻の前で歩を止めた。
二つの檻は斜向い。妖狐と妖犬が見合い、頷く。
「山守の祝、ヨキから切り離された闇。」
本ティ、ビクッ。
「言い残す事は。」
闇なので、舌が無いので話せません。
「・・・・・・そうか、わかった。」
???
「山守の祝から切り取られ、石室に隠された闇。」
ティ闇、ドキッ。
「言い残す事は。」
本ティ同様、舌が無いので話せません。
「・・・・・・そうか、わかった。」
???
祝辺の獄にある檻の中で壺ごと、狐火に焼かれ消滅した。
壺の外で何か起きたのか、本ティにもティ闇にも分からない。けれど白と青の炎に包まれたので、狐火にヤラレタのは判ったハズ。
獄の奥から風が吹き、揺らめく焔が妖しく微笑む。
「ヴゥゥ。」
ゾクゾクと寒気を感じた寿が闇を目で追い、低く唸った。視線の先には何も無い。が、『何か』が居る。
「フゥ。」
スッと目を細め、人の姿に化けた雪花。視線を上げて息を吹き、光の花吹雪を降らせた。風の流れが可視化され、寿の目が鋭く光る。
「ヴォォン。」
逃げるように闇に吸い込まれた風に向かい、寿が咆哮を上げた。と同時に光の雨が降り、祝辺の獄が隅隅まで清められる。
「・・・・・・。」
人の守、ワケが分からずポッカァン。
全て、最初から最後まで全て見ていた。なのに解らない。
白夜間神の使わしめ、雪花は妖狐。沼垂の社憑き、寿は妖犬。『妖怪は隠に出来ない事が出来る』と、ひとつ守から聞いて知っている。
なのに頭が追いつかない。
「な、にが。」
どうなっている。
「ありがとうございました。」
とつ守が、雪花と寿に頭を下げた。
「ありがとうございました。」
人の守が慌てて、頭を下げた。
「はい。」
人化を解いた雪花がニコリ。
「では、また。」
寿、尾をフリフリ。
タッタッタと空中を駆け上がり、クルンと仲良く一回転。雪花は北東、寿は北西へ。二妖を見送った祝辺の守は、とつ守を除きヘナヘナと地にしゃがみ込む。
山守の呪い祝、テイの闇が消えたのに震えが止まらない。
テイはセイとヒサの娘。セイは狐と人の合いの子、萩の子孫。
ヒサは山守の祝女だったカズの私生児。薄いが雪花の血が流れていたので、狐火で消滅できたダケ。
もし他の狐だったら? 雪花が使わしめで無ければドウなっていたのだろう。
「怖い。」
人の守が漠然とした不安に苛まれる。
「終わってイマセンからね。」
とつ守の、たった一言にギョッとする一同。
「テイの闇が消えて無くなったダケで、呪いの種は残っています。」
雪花と寿に清められた祝辺深部で、暗がりに吹く風が巻き上がる。そして音も無く、四方へ。
「ふふふふふ。」
奥底が知れず、気味の悪い『何か』が笑った。
暗風編でした。新生編に続きます。お楽しみに!