12-69 空へ
最後の力を振り絞り、ヴァンが地上に出た。
急ぎ山越に行こうとしたカヨは悟る。近づいてはイケナイ、手を出してはイケナイ。近づけば、手を出せば消されると。
慌てて山守社の北にある、『神が宿る』と思われている大岩の洞に飛び込んだ。
テイの闇をアッと言う間に焼き尽くした狐が、国つ神の使わしめがコチラへ真っ直ぐ向かっている。もし見つかれば、あの狐火で焼かれてしまう。
ずぅっと昔に死んだケド、アレら全てを残らず消すまで死ねない。だからココで、狐が社に戻るまでジッと耐える。耐えるんだ。
「ふぅ。」
久しぶりだな、朝日を見たのは。
「はじめまして。私は白夜間神の使わしめ、雪花。山越の外れ、水筋の洞に潜んでいた獣ですね。」
「はい。ヴァンと申します。」
「私は沼垂の社憑き、寿。ヴァンさん、答えてください。人を、巫を食らいましたか。」
「いいえ。」
ウロは山守から巫や覡を無くすため、器を求めていた私と手を組んだダケ。
「では、雷獣を食らったのは。」
雷獣の背に蝙蝠の羽、顔は人。ドコからドウ見てもバケモノ。何をしようとした。何を考えている。
「生身の体を得るため、取り込みました。」
初めて見る怪獣に驚くのは当たり前。姿は違うが、ギリシア神話に出てくるキマイラと同じだからな。
「ウロも私も、思い残す事はありません。雪花さま、寿さま。どうかテイの闇から、私どもを御救いください。」
そう言って、ヴァンが首を垂れた。
「お願いします。」
雪花に首を垂れ、一言。
雪花に見つめられた寿が頷く。その目は『終わらせましょう』と、強く訴えている。
ウロとヴァンは何かを成し遂げた。ホッとした時、テイに闇を植え付けられたのだろう。それからずっと、ずっと苦しみ続けたとしたら・・・・・・。
「わかりました。」
雪花は目に薄っすら涙を浮かべ、青と白の狐火を展開。全てを焼き尽くす。
「あっ。」
寿は見た。テイの闇から解放され、舞い上がる魂を。
「ウロ! 迎えに来たよ。」
「ムナ? ムナなの。」
「そうだよ、ムナだよ。」
ウロの死後、生贄にされ死んだムナ。
婚約者に名を呼ばれ、ウロが待っていると思い根の国へ旅立った。なのに根の国にウロは居らず、頭を抱えた。
伊弉冉尊に御声を掛けられ、知る。
ウロが人の世に留まり、山守から巫と覡を無くそうとしている事。ヴァンという妖怪と手を組み、それを成し遂げた事を。
根の国からは出られない、ウロの側へ行けない。だから根の国から見守り続ける。
そうしてやっと、やっとテイの呪いから解き放たれたウロを迎えに行き、抱きしめる御許しが出た。
「ウッウン。何か忘れてナイか。」
ウロを迎えに来たムナ、ヴァンに一礼。微笑み、スッと背を向けた。
「ウロ、御出で。」
両手を広げ、微笑む。
「ムナ!」
最愛の人の胸に飛び込んだ。
熱い抱擁を交わすウロとムナ。少し離れた場所で見守るヴァン。三つの魂がテイの闇から解放されたのを確認した雪花は願う。
『生まれ変わっても、また出会えますように』『幸せに暮らせますように』と。