12-68 何でもあり
この感じ、やまと妖怪では無い。
『はじまりの一族』でも『新たな一族』でも無い何かが弱り、闇落ちする前の隠を取り込んだ。それでも動けず、雷獣の体を乗っ取った。というトコロか。
血だな。
奪った器を使い熟すため、中から変えている。毒蛇のように噛みつき、流し込んだのだろう。そんな事を雷獣に出来るのは鼠、いや蝙蝠。
「寿さま。『血を吸う蝙蝠がいる』という話、耳にされた事は。」
沼垂の前は、あの留萌で働いていたんだ。
夜久さまは望月湖が出来る、ずっと前から留萌神に御使えしていた鼠。きっと何か、噂でも何か知って為さった。と思う。
「・・・・・・留萌が呑まれ、飆に移り住んで直ぐだったと思います。化け王に御会いしまして。」
「化け王。」
「はい。はじまりの一族、でしたか。アンリエヌの化け王です。」
スゴイ! 千年を越えてから数えてイマセンが私、一度も御会いした事アリマセンよ。
「アンリエヌは冬になると雪で閉ざされる、高い山に在るそうです。西にも暖かい地が在るそうですが、夏でも冷える地では血を吸う虫も獣も生きられない。けれど東の地は冬でも暖かく、血を吸う生き物が多い。そう伺いました。」
ホウホウ、それで?
「『やまと』は大きな地の東端にある島で、海の東には海と海に挟まれた地がある。ずっと暑いのに昼と夜は大違い。だから生きるため、他とは違う姿になったトカ。」
うんうん、それでそれで。
「その生き物の中に、動く生き物の血だけで命を繋ぐ蝙蝠。確か『きろぷてら』、血を吸うのは『ばんぱいら』だったカナ。そう伺いました。」
それだ!
「海は広いので、妖怪でも渡れない。やまとに出る事は無い。そうも伺いました。」
ん?
『新たな一族』が生き血を糧にするのは、『はじまりの一族』が『才』を失ったから。
『才』は能力であり、力の源でもある。才知は努力で補えるが、才能は持って生まれたモノ。ソレが奪われれば生き残されない。
だから『進化』ではなく『退化』したのだと考えられている。
退化により生み出された一族は日光で焼死し、炭化せず灰となる。
身体能力は高いが老衰し、平均寿命は百。アンリエヌ国内では『ヴァンプ』と呼ばれ、旧王城に広がる地下空間で棲息。
王家からの配給品で食い繋いでおり、化け王に絶対服従を誓う。
「けれど、そうですね。ブラン様が鳥の谷に作られた砦に戻られないのは、『霧雲山の統べる地へは遣れない』と御考えだからでしょう。」
「・・・・・・それは、その。」
アンリエヌ国王であるカーは従兄、エンに頼まれて環境保護に取り組んでいる。けれど正直なトコロ、霧雲山の統べる地に魅力を感じてイナイ。
とはいえ約束は約束。優秀な臣下を派遣した。
霧雲山の統べる地がドウなろうが構わないが、ブランの安全と健康を守るため尽力なさる。
鳥の谷にある洞を快適空間に改造、環境にも配慮。才で拡張してるので許可なく出入り出来ない。食料や水、生活必需品など全てアンリエヌから直送される。
転移装置は万能タイプ! 緊急時にも大活躍。
「天霧山の雲から『祝辺の獄、その奥に『何か』が潜んでいる』と聞きました。」
「私が感じたアレは、祝辺の奥に潜む『何か』がだった。ソレが山守と祝辺を行き来している?」
「雪花さま。この話、沼垂社に持ち帰っても宜しいでしょうか。」
「はい、寿さま。お願いします。」