12-67 潰敗
新曲は完成した。けれど開演まで、まだ間がある。
ティ小のファンは礼儀正しく、善良で淑やか。作法を破るとは思えない。
「こんばんは。はじめまして、ティ小です。」
ニコッ。
「分ティです。うふっ、いただきマス。」
強い吸引力を誇る掃除機に吸い込まれる、塵や埃のようにシュポッ。
「闇が、闇が広がる。」
分ティとティ小が融合。
「ウッ、ヴッ!」
吐き気が込み上げてきた。
「グハッ。」
分ティとティ小の融合には成功したが、負荷に堪えず吐血。
「ア゛ァァァァ。」
明日の体から、穴という穴から血が噴き出した。ティ小愛用の琴が真っ赤に染まる。
「ウヅワ。アダラジイ、ウヅワヲ。」
直ぐに乗り換えなければ、この体から出られなくなる。誰か、誰か居ないか。
こうなったら虫でも鳥でも蛇でも、四つ足でも何でも良い。急いで奪わなければ、直ぐに奪わなければ、今直ぐ奪えなければ終わる。全て水の泡だ。
「ゴイッ。」
闇をビュンと伸ばし、通りすがりの狸を掴む。
「ヴューン!」 ハナセェ!
威嚇する時にしか鳴かない狸、絶叫。尻尾を捕まれ引っ張られ、洞窟の中へ。
「・・・・・・また狸か。」
二代目、分ティ狸ィです。どうぞ宜しく。
「ハァ。」
驚くと仮死状態になる狸に暴れられ、分かり難いけど傷だらけになった分ティ。いろんな意味でボロボロ。
「離れよう。」
洞からトコトコ逃亡。
「次は祝の体を手に入れる。」
誰も聞いてナイけど、堂堂と宣言。
短い四肢を動かし、プリプリぷりりん。月光から逃げるように吹く風に乗って、闇の中に消える。
・・・・・・!
ハズだったのに焼かれた。青と白の狐火に焼かれた。九尾の白狐に、赤目の狐にヤラレタ。何もかもスッカリ無くなってシマッタ。
「雪花さま?」
沼垂の社憑きが、白夜間神の使わしめに声を掛けた。
「山守、地割崖の北で何かが揺れました。闇より薄く、水より濃い何かが。」
祝辺から山守に移動中、テイの闇が消えビクッとしたのを気付かれた。けれど、カヨは気付いてイナイ。
「急ぎましょう。」
「はい。」
雪花と寿が向かうのは山守の頂、祝辺。
テイから切り取られた水生闇、全滅。
残るは祝辺に二つ、山越に一つ。呪い玉がウロチョロしているが、アレの狙いは山守。山越に移住したのも含め断種、絶滅させる気だ。
切ティ小ティ分ティ、ティ小。アレも気に入っていたのか、消滅と同時にビクリ。で、狐に気付かれ焦ったと。
フッ、まぁ良い。そろそろ動くか。
「ウロ、風向きが変わった。ココから出るぞ。」
ヴァンが微笑み、相棒に声を掛ける。
「私たちをテイごと消して無くしてくれる、強い何かが現れ出たの?」
「あぁ、そうだよ。やっと解き放たれる。」