12-66 分ティ人、激流を遡る
山守の祝、テイは死んで呪われた。
なぜテイが選ばれたのか分からない。けれど生きていた時、いや違う。祝になったテイに、カヨの呪い種が植え付けられたのだ。
「考えなければイケナイのは、他にも。」
「投の言う通りだ。」
「そうですね。」
樺とタンが見合い、頷く。
霧雲山に潜むテイの闇。五つのうち三つは、直ぐにドウコウなるモノではない。
ヴァンは妖力さえ戻れば自力でテイを消滅させられる、と思われるので除外。祝辺深部にいる本ティとティ闇は、どう前向きに考えても脱獄不可能。
問題は、ティ小と分ティ。
「流離山の洞に潜むティ小。」
「呪いとは離れている、と言うか何と言うか。」
「琴を弾きながら歌っていますね。」
残る闇がティ小だけなら監視、じゃなくて見守る。洞の奥で単独ライブを開催し、集まったファンを楽しませているダケ。何の問題もない。
けれど困った事に、質の悪いのも残ってしまった。
毬藻状態から分ティ魚、分ティ狸ィ。山在神の使わしめ、彗に見つかり大慌て。思い切り踏ん付けられ、蹴り飛ばされて下高川にポチャン。
望月湖に流され、瀕死の狸から脱出。毬藻に戻る。で再び分ティ魚、分ティ鹿、分ティ人と順調に出世。
分ティ人その一は山在の畑人、サトの次男セイ。柄が悪く向こう見ずな問題児、生まれつきのワルである。
その二は山在の巫、明日。口寄せ専門の巫は、弱った人から闇を集めるのに好都合。闇玉を発射できる力を得た。
「分ティがティ小を狙っています。」
「祝辺からは『動くな』と。」
「取り込ませるのでしょうね。」
本ティとティ闇を足しても、分ティには遠く及ばない。その分ティがティ小を取り込み、融け合えばドウなるか。
ティ小の次はヴァン、その次はティ闇。最後に本ティを取り込み山守を、いや中の東国に禍を齎すだろう。
「・・・・・・ん?」
樺が首を傾げた。
「耐えられる、のか?」
タンも首を傾げる。
「ティ小の闇も濃く深い。人の体では耐えきれず、穴という穴から血が噴き出すでしょう。」
投が言い切った。
高盛崖の上からドウドウと流れ落ちる流連滝を、物凄い勢いで登った分ティ人。鰤どころか、竜門の滝を登る鯉もビックリな離れ業を披露。
なぜ鯉が出てくるのかって? 『竜門』は中国の黄河中流にある難関、険所。
『後漢書』李膺伝に、竜門の下に多くの鯉が集まっている。けれど殆どは急流を登れない。もし登ったら竜になる、とある。
『登竜門』はコレが転じて、立身出世のための関門を意味するようになりました。戻ろう!
「ふぅ、疲れた。」
汊眺の横をスイスイ泳ぎ、颯を過ぎた辺りで上陸。
「歩くか。」
滑川沿いを上流へ、右を見ながらユックリ進む。暫くすると歌声が聞こえた。
「見ぃつけた。」
下流からは分かり難いが、上流からだとハッキリ判る。洞だ。山腹にポッカリ、穴が開いている。濃い闇が分ティを待っている。