12-65 呪いの核
霧雲山にいる、人の忍びは木菟と鷲の目。隠の忍びは靄山隠と恕。
恕は人生を達観して死んだ、女人の隠を中心に構成。陥れられて居場所を失い、絶望して死んだ隠を喰谷に連れ帰り、根の国へ送る活動を続けている。
人の世に居るが伊弉冉尊公認の隠忍びなので、どんな隠でも恕と喰谷に入山すれば浄化可能。そのまま合繋谷の滝壺から根の国へ行ける。
因みに左牙でも右牙でも、好きな滝壺を選べマス。
「見送った隠から何か、聞いたのか。」
タンが投に問うた。
「『山守で死んで、呪いの種になった娘が居た』と、多鹿の娘が言いました。」
「その娘、根の国へ?」
「はい。」
偉山は山中に里や村が点在するが、閉鎖的な山だ。
男尊女卑だが一夫一妻制を導入しており、男には選択権があるが女は父兄に絶対服従。女腹だと冤罪を掛けられ、公開処刑のうえ喰谷山に投棄される。
偉山にある里で生まれた投は十二になると直ぐ、親に強制されて結婚。娘を三人出産する。
末娘誕生の翌日、夫の不倫相手が男児出産。婚家と妾から夫を『毒で殺そうとした』と責められ、里の皆が見ている前で袋叩きにあった。
動けなくなると、そのまま喰谷山にポイ。
生きているのか死んでいるのか判らないまま、ボンヤリと『悪い事をしなければ生きられない、そんな人を憎んでも闇に染まるだけ。いつか罰を受けるでしょう』と悟りを開いて死亡。
隠になった投は里に戻らず、合繋谷に飛び込んで根の国へ行く。
伊弉冉尊から『同じように苦しむ隠を清め、こちらへ送りなさい』との言葉を賜り涙した。
人の世に戻った投は『恕』を結成し、骸の側で膝を抱えて闇堕ちした隠を救い続けている。
「呪いの種となったのは、多鹿の織り人カヨ。」
スッと背筋を伸ばし、投が口を開く。
人とは思えない、整った姿形をしていたカヨは山守の民に『祝の力を隠し持っている』と言われ、問答無用で連れ去られた。
祝の力など無いが、有ると思われているのだ。酷い扱いは受けないだろう。そう思ったのに里を出て直ぐ、森の中で山守の男に穢される。
『山守に着けば死ねる』と思った。
なのに『離れ』と言う名の獄に入れられ、逃げられないのに手足を縛られ、舌を噛み切れないように猿轡を填められ、朝から晩まで・・・・・・。
山守の全てを呪いながら死んだカヨの骸は、死臭が酷くなるまで穢され続けた。闇落ちしたのも、呪いの核になったのも当たり前。
「だからカヨは根の国へ行かず、人の世に留まって山守の祝に憑いた。そう伝え、受け継がれていると聞きました。」
「・・・・・・酷い話だ。」
やっとの事で声を絞り出したタン。
「恐ろしい事をする。」
そう言って、樺が目を伏せた。
「私は思うのです。カヨが山守を、いいえ。山守の種を絶やそうとしていると。」
・・・・・・。
「呪われた祝は生贄や人柱を求めますが、皆『山守の民から出せ』と言っていた。違いますか。」
その通り。
「山守の長やら何やらは揃って、『山守の民を差し出しても何も変わらない』と思った。だから従っている、聞いているフリをして他から。」
「テイの闇を消して無くせても、カヨの呪いは消えない。という事か!」
投の言葉を遮り、叫ぶように樺が言う。