12-58 タラだって
ミチに祝の力は無いが、大泉神の愛し子。移動視力と遠近視力の持ち主。農業に従事しているが、狩猟も嗜む細マッチョ。
一方ソウはカンが鋭い元、狩頭。二人は古くからの知り合い。
珠の湖に浮かぶミチをソウが見つけ、大急ぎで引き上げた。身包み剥いで焚火の前に転がし、肩を叩いても起きなかったのでビンタを食らわす。
『痛いよ』と言って瞬きしたミチ、『オレは女が好きだぁ』と大騒ぎ。裸ん坊だったからね。
ソウは慌てず騒がず『オレもだよ』と返し、木の枝に干された生乾きの衣を指差す。それからシシ皮を『ん』と押し付け、クルッと背を向けた。
いろいろ思い出したミチは赤くなりながらシシ皮を腰に巻き、『ありがとう』と一言。衣が乾くまで黙っているのも何なので、ポツポツ話すうちに意気投合。
現在に至る。
「社を通してソウから聞いている。大泉の近くが良いと思って、古い家を建て直したんだ。タエ、タラ御出で。コッチだよ。」
「はい。行こう、タラ。」
「うん。」
青と白の狐火で炙られ、身動き取れない三人組。目で助けを求めたのに無視され、口を開けてガーン!
フサは火力調整のため残ったが、シナとクルはタエを守りながらトコトコ。
シッカリしなきゃイケナイよね、うんうん。
タエ、好きだよ。もっと好きになっちゃった。エヘヘ。てな事を心の中で言いながら、出した手を戻さずブンブン振って歩くタラ。
後ろ姿がチョッピリ寂しそう。
「さぁ着いた。」
平良より鎮野に近い方が良いだろうと、大泉の東に建てられた新居。向かって左に大泉、右に田んぼ。手前には小さな畑があり、豆や稗、蕎麦が植えられている。
「裏に建っているのが山頭ウリ、狩り人リコの家。大泉での後見はオレだが、いつでも頼ると良い。」
「はい。」
家の中から熊のような男と、強そうな女が出て来た。
「おや、早かったね。」
「あぁ、先な。」
「オレは山頭のウリ。隣に居るのがリコ、狩り人だ。」
山頭を務めるウリは愛妻家。外見は熊のようだが、婦女子には優しい。有事の際には二人を連れて鎮野へ行くよう、ミチから言われている。
狩り人のリコは強そうに見えるので、ウリを尻に敷いていると思われがち。けれど実際はベタ惚れ。幼馴染でもある二人は相思相愛、比翼の鳥。
「リコよ。弓より罠、花より毒に詳しいの。」
うふふ。
「はじめまして。良村のタエです。」
「はじめまして。野呂のタラです。」
『弓より罠、花より毒』と聞いても驚かない二人に好印象を抱いたリコとウリ。見つめ合ってニコッ。
リコは『この二人、思い合っているんだわ』と心の中で大騒ぎ。ウリは『リコが嬉しそうだ』とウットリ。
「要る物は揃えた。」
「立ち話も何だし。」
分かり難いが、ウリとリコの目がハートになっている。
「そうだな、ほら。」
ミチに促され、家の中へ。
まだ子とはいえ、若い男女が一つ屋根の下。それってドウなの? というコトで中央に仕切りを作った。
タエにはクルたちが憑いているので、貞操を失う事は無い。
タラはタエにベタ惚れ。タエが嫌がる事はシナイだろうが、タラだって男。ガオォとなる。かも知れない。