12-56 地中探検
大泉神の使わしめ、亀は甲に緑藻が着生した石亀。つまり、蓑亀の妖怪。
子亀の時から大泉神に仕えて天寿を全う? したようで、本亀も気付かぬまま妖怪化。出不精な大泉神の代理としてアチコチ出向いた結果、変化能力が向上。
若者に化けても貫禄たっぷりヨ。
「・・・・・・。」
大泉社の札を首から下げていたが、カランコロンするので甲の中に入れた。それをスッカリ忘れて、人の姿に化けている。
「えっと。」
タエを守るように前に出たタラ、心の中で大騒ぎ。
ドッチだ、これドッチだ? 『使わしめ』って言った。なら獣か何か。化ける前の姿なら『鳥さま』とか『狐さま』とか言えるのに、初めから人に化けられると困る。
「お久しぶりです、亀さま。」
シナが前に出て、ご挨拶。
「確か飯野の。」
「はい。前の亀頭、シナです。」
飯野の社憑き筆頭でしたが、今はタエの後見デス。
妖狐フサと妖犬クルはタエの左右を固めている。もちろん二妖とも前、社憑き筆頭。亀との話し合いは亀に任せ、護衛任務に集中。
警戒するのは当たり前。
イキナリ奥からヌルッと現れ、シュッと人の姿に化けたのだ。フサたちは『大泉社から迎えが来た』と直ぐに判ったが、タエもタラもビックリ仰天。
悪いモノでは無いと思うが、名乗るか、元の姿を見せてくれないと困る。
「亀さま。茅野の狐フサ、添野の犬クルに挟まれている子がタエです。前に出ている子が野呂の狩り人、タラ。どうか甲の藻を、この子らに御見せください。」
自慢の緑藻を『見せて』と言われて、臍を曲げる蓑亀はイナイ。ポンと戻ってニッコニコ。
「どうだ。」
ふふん。
蓑亀は甲羅に緑の藻が生え、蓑を纏ったように見える亀。淡水産・海水産のドチラにも見られ古来、長寿のシルシとして、めでたいモノとされる。
四瑞で瑞祥ズの一員、霊亀は霊妙な亀。蓑亀とは別物。
霊亀は霊体、霊感の強い人にしか見えません。けれど蓑亀には実体があるので可視、お触り共に可能。
「さぁ、大泉へ行こう。シナ、フサ、クル。タエとタラを荷ごと包んで、甲の真中に乗せておくれ。」
「はい。」
タエとタラが荷を持つと、シャボン玉のような球体が現れ、そのままフワリと浮上。亀の大きな甲の上へ移動し、ポワンとしてピタッ。
一隠二妖がピョコピョコと、頭から飛び込んできた。亀の頭の方をシナ、左後ろにクル、右後ろにフサが押さえると、球体が半球体になる。
スゥっと上がってスゥっと進むが、目の前にあるのは洞の壁。このままじゃ打ち当たる! と思ったのに、丸太に斧を入れるようにパッカァン。
驚いて振り向くと、岩が手を合わせるように閉じていた。
「わぁぁ。」
タエとタラが感嘆の声を上げ、手を繋ぐ。
「水筋だ。」
嘆き溪の洞の近くには水脈があり、白滝湖に繋がっている。
白滝を上り山桃湖に入って直ぐ、西へ。地中を進んで泡湖に出たら、放川を下って大泉へ。
地中探検を満喫したタエとタラ、大泉に到着。
人の子なので水中にある大泉社には入れない。ゆっくり浮上し、水面を滑るように移動。泉の南で半球が球体に戻り、そっと地上に下ろされた。