12-55 もう食べられなぁい
先見や先読の力は、戦好きに狙われ易い。
添野は豊田に破れ、豊田の国に組み込まれた。タエの母が生まれた茅野は飯田に破れ、飯田の国に組み込まれた。
タエの祖母が生まれた飯野は武田に破れ、武田の国に組み込まれた。
豊田、飯田、武田の長が、先読の力を持つタエが戻ったと知れば、その倅に組み敷かれる事になるだろう。
タエには強い先読の力が有る。
母から娘の一人に譲渡される力は、ソレが人類なら優劣・美醜に関係なく継承可能。
先読に限らず、強い祝の力とは然ういうモノ。だから狙われ攫われ囚われて、譲渡完了後に殺される。攫われたら終わり。
敵は戦好きダケでは無い。厄介なのは霧雲山系最高峰、山守の御山にある二つの村。
山守の民は生贄や人柱として、祝辺の守は更に強力な力を得るために求める。
有望な人、優秀な人材を発掘して引き入れれば思い通りになる。困った事に、そう信じて疑わないのだ。
「ウッ。」
清めの力を持つ祝人頭、マヨが力を揮うも大苦戦。
「強い。ピーさま、闇を。」
土を操る力を持つ祝女頭、カヤ。鉢を伏せるように野呂山を覆う。薄いのでペコンペコンしそうだが、その強度は鋼より上。
「はぁい。」
野呂神の使わしめで昼担当、鵟の隠ピー参上。
カヤにより弾かれた闇が壁面をスルスル落ち、雨樋のような溝を伝って渦を巻いていた。ソレをパックンして腹の中で浄化。
「美味しくない。」
そりゃソウでしょう。
「でも、お残しシナイよ。」
パクぱくパックン。
「もう食べられなぁい。」
ケプッ。
最後まで遣り遂げた食いしん坊。ヘソ天になって両の羽で、ポッコリお腹を摩る。
「良く清め切った。」
野呂神の使わしめ尾被。夜担当の鼺の隠が飛膜をパタパタし、清めの風を送る。
「何なの、あの闇。もう嫌お外でぇないっ。」
祝、引き籠もり宣言。
「顔だけ出せば読めるからな。」
祝人頭、焦らず冷静に一言。
「ソレってドウなの。」
「父として言ったのだ。倅よ、シッカリしろ。」
「・・・・・・はぁい。」
残念だが、気の毒だが、遺憾に思うが耐えろ。それが祝だ、力を揮え。キリキリ働け、務めを果たせ。
「そろそろカナ。」
野呂神、ニコリ。
あの闇は山守の呪い祝、テイから切り離されたモノ。
あんなに濃く、深いとは思わなんだがソウか。アレが広がる前に嘆き溪の洞に入ったなら、どんな闇からも守られる。
「野呂神。御知らせくださり、ありがとうございます。今すぐ使わしめを、水筋を通って向かわせます。」
「はい、お願いします。ところで大泉神。」
「はい。」
「あの闇、祝辺の奥に潜む『何か』と似ている。いや同じ『何か』を纏っている。そんな気がするのですが。」
「そうですね。」
あの闇はテイに取り憑いた呪いソノモノ。
狭間を走る何かを通って、山守から祝辺に入ったのだろう。アレを清めるには祝の力と、全てを清らで穢れの無いモノに変える力が要る。
大蛇神にも化け王にも為せぬ事だ。
・・・・・・化け王に祝の力が有ればなぁ。