12-51 開放されたなら
タップリと闇を吸い込んだ分ティ人、贔屓筋から差し入れられたアレコレを前にウットリ。
『供物を捧げられるナンテ』と、心の中で大燥ぎ。
誰にだって悩みがある。不安を抱えたり、何かに恐怖したりネ。そんな負の感情を吸収して力を蓄える分ティを、ただ一人ジッと見つめる御婆。
「チュッ。」 エッ。
分ティ人の闇を齧り、逃げ去ろうとした鼠ん。御婆の鋭い視線にタジタジ。
「どうぞ、御持ちください。」
山在の社の司、カヌが促す。ペコッと頭を下げて駆け出した鼠んを見送り、微笑んだ。
「何が居たんですか。」
神降ろしや神懸り成功率100%を誇る御婆でも、祝の力が無いと見えないモノは見えない。
「鼠さまです。」
山背の社憑き、鼠ん。沼垂神から特命を帯び、高難度の技を次次と決めた。山背の祝お手製の袋に入れ、受取に来た寿に渡す。
沼垂の社憑きは通いだが元、留萌の社憑き。その全てに無駄が無い。
闇耐性を持つ犬の妖怪は野良経験を活かし、社憑きが敬遠するような任務でも最短で処理。わんダフル。
「カヌよ、見よ。」
「はい。」
御婆の言いたい事、良く分かる。軟体動物のようにフニャンフニャンになり、目から光を失った村人たち。そう長くは生きられない。
苦悩、苦痛から開放されたなら、それが死でも洗脳でも幸福か。残された者が後悔の念に駆られ、圧し潰されたとしても。
「人は弱くてシブトイ生き物です。長く苦しみ、嘆くでしょう。けれど何時か立ち直り、真っ直ぐ前を向く。私はそう、信じています。」
カヌの言葉を聞いた御婆が黙って頷き、歩き出す。
虚ろな瞳で恍惚とする信者たちに目も呉れない。戦場でも無いのに死屍累累、遣る瀬無い思いでイッパイだ。
どの骸も幸せそうな顔をしている。
そんなに辛かったのか、苦しんでいたのか。生きて幸せになるより、死んで楽になる事を選ぶなんて。そんなに生き難いのか、山在は。狩山は。
キョロキョロ。キョロキョロキョロ、うん。
「いっただっきまぁす。」
頭、パッカァン。
真っ二つに割れた頭部から闇が、闇の手が幾つも伸びる。骸を掴んでは引き寄せ、掴んでは引き寄せて納めてゆく。
美味しそうに、嬉しそうに次から次へヒョイ、ヒョヒョイ。
刃に変化させた脳髄を高速回転させ、嚥下しているように見える。送り込まれた食塊は細かく挽かれたか、はたまた擂り潰されたか。
何れにせよ原形を留めてイナイだろう。
「ふぅ。」
腹を摩って、ポンポン。
「歩くか。」
腹熟しに散歩に行く。
監視員は山在の精鋭ダケではない。狩山中から集められた隠が、分ティ人を其処彼処からジィっと見つめている。
アヤシイ動きがあれば直ぐ、妖怪に応援要請。
妖怪の前に出ているのは隠。隠はどんな時も、何があっても隠だから。