12-49 見上げてごらん
白夜間社に就職して、初めての出雲出張。自由時間に因幡へ行き、セリの墓に水と花を供えてから萩の子孫に会いました。
といっても、村長の家を遠くから見るダケ。
「孫の誰かが因幡を出て、ココまで。」
因幡があるのは中の西国。中の東国、霧雲山の統べる地までは遠く離れている。
私を追って? いやソレは無い。セリが死んでから、神主を務めているのは村長。困った時は社を頼るだろう。
「攫われた。」
はい、子孫の一人が妖怪に攫われました。
雪花似の美男子に恋をしたのはナント、飛行型大陸妖怪。手掛かりナシ。村人総出で捜索しましたが、相手が妖怪じゃ手も足も出ない。けれど運が良かった。
その子、尾ナシなのに狐火が出せたんです。泣くのをグッと堪えて、ウヒヒな妖怪の腹にドンと叩き込みました。
結果、急降下。
狐は飛べない! でもセリの血が強く出たのか諦めず、狐火をバカスカ出して着地成功。降り立ったのは真中の七国、倭国。
もう少し東なら中の東国、津久間の地だったのに・・・・・・。
「山守の呪い祝テイの父、セイは今どこに。生きているのでしょうか。それとも、もう死んでしまったのでしょうか。」
生きているなら直ぐに引き取り、共に暮らそう。罪を犯したなら乱雲山、雲井社へ連れて行く。私に出来る事なら何だってするさ。
「ヒサとテイに看取られ、病で死にました。テイが九つの時です。」
ヒサは恋に生きましたが、寂しくありません。その分セイに慈しまれ、スクスク育ちます。
人は愛された記憶があれば、どうにか生きられるモノ。愛情をタップリ注がれ成長したので、歪みませんでした。
セイが死んで、ちょうど一年後。楽しく暮らしていたヒサは闇の力が通じない女に嫉妬され、頸動脈を切られて二十四歳で死亡。
テイは十歳で親無しになります。けれど山守の継ぐ子だったので、飢えや寒さに苦しむ事なく天寿を全う。と同時に呪い発動。
呪いとは恐ろしい物です。そんなテイをグニャリと歪ませ、多くの禍を齎すのですから。
「私は、私はどうすれば良いんだ。」
頭を抱える雪花。
「まだ出来る事がある。」
雪花の肩をポンと叩き為さり、ニッコリ。
「白夜間神。」
「下ばかり見てはイケナイ。さぁ、見上げてごらん。」
そうだ、まだ一つ。一つだけ残されている。私にしか出来ない事が!
血肉が失われてもテイはテイ。どんな姿になっても薄いが、私の力が残されているだろう。狐火で、私の狐火で焼き尽くせる。
考えろ。今、動けば逃げられる。動くなら全て揃う時。
霧雲山に潜むテイの闇は四つ。祝辺の獄、山越の外れ、流離の北、狩山の東。
祝辺のと山越のは後回し。流離の洞に潜むティ小は何れ、狩山に潜む分ティが取り込む。それから山守、いや山越に向かうだろう。
「耐えられるのか?」
話を聞く限り、それぞれ闇を深めている。
「憑いた巫にも同じ力が、その身に。」
となると。
「器が割れた、その時を狙う。」
ティ小と分ティが一つになる時、器が割れる。割れて地の下に潜る前に焼き払う。それから水筋の洞に隠れている何か、妖怪か何かだろう。それを焼いたら祝辺へ。
「もう迷いません。」