12-48 いつまでも、共に
妖狐は百年ごとに一本、尾が増える。
白狐の多くは祀られたり神に仕えるが、赤目の野狐は畏怖の対象。尾の数で妖力が決まる妖怪、五尾でも十分強い。
激昂して我を忘れた雪花は、腰を振る下種を狐火で瞬殺。
セリは顔が腫れるまで殴られ、首を絞められても諦めず、死に物狂いで抵抗したが・・・・・・。
「骨は折れていませんでした。けれど立てず、歩けず。狐に出来る事なんて知れてます。触れずに運ぶなら、男を焼き殺した狐火を使うしかアリマセン。」
そんな事をしたら、きっと怖がらせてしまう。だからと、横抱き出来ない。
「使い蚕に頼んで、繭で包んでもらいました。」
因幡の社憑きは妖怪二割、隠八割で皆、シラ無しでは生きられない体になっている。狐の頼みは聞き届けられなくても、シラの頼みなら喜んで!
「因幡の社の司には、傷を癒す力があります。繭の外から力を揮い、セリの傷を癒しました。けれど癒せるのは、目に見える傷だけ。」
心に負った傷は、時の流れにしか癒せない。
「人は忘れる生き物です。それでも、深すぎる傷を癒すのは難しい。」
身籠っていなかったのが『救い』だなんてね。
「どんなに強い力を持っていても、人の子一人救えない。狐火一つで奪えるのに、成し遂げるのに要る力を持たない。そんな狐に、そんな狐を求めたんです。セリは。」
鎮の西国、中の西国、真中の七国には戦狂いしか居ない。だから四つ国か南国に移り住もう。
山が近ければイロイロ狩れマス。私、狐なので。
「驚きました。」
狐の姿じゃアレなんで、人の姿に化けました。けれど幾ら妖怪だからって、人との間に子が出来るとは思いません。
えぇ、私の子です。でもね、そりゃ驚きますよ。
「『私は一人じゃない。この子と二人、強く生きます』そう言って笑うセリを抱きしめ、言いました。『いつまでも、共に生きよう』と。」
人と妖怪では生きる時が違う。それでもセリが死ぬまで、ずっと側に居よう。そう決めました。
「合いの子は男で、人の姿で生まれました。そのうち尾が生え、頭から耳がピョコンと出るのでは? なんて思いましたがね。ふふふ。」
狐火を出せない尾ナシでホッとしましたよ。
「萩、倅の名です。萩が人の世で生き難いようなら隠の世へ移り住めば良い。そう思っていたのですが萩は賢く、優しい子に育ちました。」
当時、狐様と呼ばれていた雪花はセリのため、因幡社の隣に家を建てた。モチロン許可を取ってネ。
セリは村長に頼まれ神主、氏子代表になる。
基本的に妖怪は人に姿を見せない。その妖怪が、それも妖狐が姿を見せているのだ。当たり前と言えば当たり前。
その村長、子宝に恵まれなかった。思い悩んで萩が五つの時、『引き取りたい』と言われる。良く良く話し合い、萩は村長の家の子になった。
とはいえ御近所。好きな時に好きなだけ、会う事が出来たので寂しくない。
「村長になった萩は好いた娘と契り、倅二人娘一人の親になりました。三人とも狐火を出せない尾ナシです。私はセリを看取り、手厚く葬ってから因幡を出ました。使わしめでも社憑きでもナイのに、居られません。」
因幡神、使わしめシラ、社憑きの蚕たちに引き留められるも雪花の決意は固く、笑顔で送り出されます。
また放浪の旅が始まりましたが『セリや萩に恥じぬ生き方をしよう』と心に決め、武力行使は控えました。
狐火で炙って、チョッピリ焦がすのは良いよね。
狐泉社に運び込まれましたが、アレだってそう。攫われそうになっている人を救い出し、ゴロツキを軽く炙ったらビックリ、反撃されました。
最後まで平和的解決を模索しましたが交渉決裂。残念な結果になったダケ。