12-46 八面六臂の大活躍
よく覚えている。
山守の村長が留萌から連れ帰った嬰児を気に入り、あのアキが横取りしたんだ。『アタシが育てる』ってね。
あまり泣かない子だったが、そうか。そうだよな。あの飽きっぽいアキを振り回し、上手く立ち回るには末見の力が要る。
弱い先見を持った子だと思ったのに、真を歪めていたのか。
「留萌から山守に引き取られたカズは、山守の祝アキに引き取られました。」
「ひとつ守。山守の祝でアキといえば。」
「はい、彩さま。あのアキです。」
御勤めの最中にも拘らず『厭きた』と言って放り出し、山守と祝辺を分断させた張本人。
祝の力は無いが見た目の良い女を巫、男を覡とし生贄や人柱として捧げ始めた、あの祝である。
揺れが治まり、鎮森から出て来たアキを捕縛し投獄。ギャン泣きして引付を起こしたカズと共に、ね。
「十二の時に男、十五の時に女の子を産みました。どちらも父の知れない子です。」
「似てはイケナイところが、似てしまいましたか。」
「そのようです。」
私生児として生まれたカズの第一子、スミ。未見の力は母から、体格の良さは父から受け継いだ。
十一歳で山守を出奔。山越を通り抜けて下山し、滑川沿いにある隠れ里で狩りをしながら移動。
流連滝の西側の崖を下り、滑り崖を抜け急川を渡って狩山に入山。山郷で狩頭の娘と契り、子を生す。
同じく私生児として生まれたカズの第二子、ヒサ。人の心を惹き付けて操る、闇の力を生まれ持った。
十三歳で山守の村長が隠れ里から連れ帰った、妖狐の血を引く十五歳のセイを誘惑。十四歳で女児、テイを出産。
楽しく暮らしていたが闇の力が通じない女に嫉妬され、頸動脈を切られて死亡。享年二十四。
「男はスミ、女はヒサ。スミは十二になる前に山守を出ます。ヒサは山守の祝女になり、山守で死にました。」
「スミは山守を出て、どこへ。」
「山越を抜けて山を下り、滑川に沿って下ったのでしょう。望月湖をグルッと回って、急川を越えて狩山へ。山郷で狩り人として生き、年老いて死にました。」
「詳しく御話いただき、ありがとうございました。」
『祝辺の守って凄いな』と思いながら、彩がペコリと頭を下げる。その影に潜んでいたのは聞取調査を専門とする『青葉組』、通称ホーホーの調査員。
青葉組は青葉が美しい頃、『発達した視覚と聴覚を活かして隠の世に貢献したい』と集まった、迫力満点の夜行性猛禽類集団によって結成された。代表は木葉木菟の木葉。
『青葉木菟じゃないんだ』と驚かれるが、全く気にしない。
進捗状況と仕入れた情報を伝えるため、定時報告場所に指定された和山社の離れに集合。
そこには素行調査を専門とする『大神組』、通称オオガの先発隊が揃っていた。
オオガの面面は熊、シシ、猿などを好んで食すにも拘らず、人を食らうと殺され妖怪化。
犲の誇りを守るため、黙って人の世を出て抜群の狩猟能力を活かし『隠の世に貢献したい』と組織。
狙った獲物、じゃなくて対象を追跡し、確実に情報を齎す強面軍団である。
「はい、わかりました。狩山へ向かい、人の世の隠たちと落ち合います。」
ワフン。
調査を開始したのは午前九時、現在正午。たった三時間で結果、出しちゃいました。
隠の世で長生きするモフモフ集団、八面六臂の大活躍。