12-43 夜更かし
望月湖に潜んでいた闇が狩山に入った。ソレに憑かれて捨てられたのが、山在の畑人の倅セイ。
今この時も憑かれているのが山在の巫、明日。
山在に祝は居らんが、その代わりに強い巫が居る。
明日が動けるのは家の周り。集まるのは心が弱った人、心が腐った人、悪い事をせねば生きらぬ人。
「人の世の事は人の世に任せる。が一つ、良い事を教えよう。霧雲山に潜むテイの闇は四つ。祝辺の獄、山越の外れ、流離の北、狩山の東だ。」
えっ、流離?
「流離の北に潜むのは、ヒオがシッカリ見張って居る。」
流離神の使わしめヒオは蜏の妖怪で、闇耐性はあるが衝撃に弱い。
蜏の隠が融合して妖怪化したので変幻自在。というか、型を展開して幻影を見せる事が出来る。
短命で、朝に生まれて夕方に死ぬ蜏は隠密向き。蛍のように発光しないので、どんな場所にも潜めマス。
「名はティ小。ガランとした洞の中で、琴を掻き鳴らしながら歌うのが好きらしい。」
孤独を愛する、古代のロッカーさ。
「狩山のは分ティ。望月湖で『分ティ、待ちきれない』と言ったそうな。」
情報提供者は汊眺の社憑き、プルンです。偶に望月湖に出向き、湖底で偵察します。あの湖、闇が集まり易いので。
「山越のは分からん。」
潜伏怪獣ヴァンは現在、仮死状態。ウロとは体内で会話するので、声を出せなくても困りません。
「祝辺のはテイだ。」
・・・・・・。
「ウッウン。どんな闇でも丸呑みして清められる、流離の祝は流離神から。どんなモノでも体に取り込み清められる、プルンは汊眺神から断られた。」
ドコの祝も山から出しません。プルンは社憑きなので出られますが、『テイ浄化作戦』の代わりに『望月湖の偵察』を依頼。
流離神も汊眺神も、万が一の事を御考え遊ばしたのでしょう。
流離の社の司には清め、禰宜には守りの強い力がありますが、テイの闇をドウコウ出来るとは限りません。
どんなに闇耐性が高くても、その身に取り込めばプルンがプルンで無くなるカモ。
「明日に憑いた分ティは山在の民から何かを吸い取り、力を付ける気だ。動き回れるようになったら山在を、いや狩山を出て流離へ向かうだろう。」
一つドコロか、幾つも良い事を教えてくれる大蛇。ニッコニコ。
「これからの事、じっくり議りましょう。」
沼垂神が仰った。
「そうですね。」
甲山神が強く頷き為さる。
分ティはティ小を取り込み、山守へ向かう。いや、その前に山越に潜む何かを取り込み、それから祝辺へ向かうだろう。
分ティが狩山を出るまでに、詐の血がドウ引き継がれたのか。その力は何なのかも調べ上げ、備えなければナラナイ。
分ティに捨てられたセイは干乾びた。
分ティに加えティ小を取り込んで、明日の体が持つとは思えない。テイの闇に憑かれても動けるのは、セイや明日が詐の血を引いているからか。
そうなら良く、良く考えて動かねば闇が溢れる。
和山社での神議りは朝まで続きましたが、参考犬として呼ばれた寿は睡魔との戦いに破れ、クルンと丸まりスヤスヤ夢の中。
狼は夜行性ですが、飼い犬は昼行性。大好きな散歩を楽しむため、夜更かしシマセン出来ません。