12-40 甘噛みでも
狩り犬だったワフが人と子を生す事は無く、呪い神になって儲けた子はワフだけ。持ち込まれた闇からワフの闇は検出されなかった。
つまり、ワフたちは白。
「詐の闇がセイから見つかった。」
「となると、詐にはワフの他にも子が?」
「居てもオカシクない。」
あれから幾年も経ち、詐が他に子を産んだかドウかなんて・・・・・・。
「寿なら何か。」
沼垂神がポツリと呟き為さる。
土に埋もれた留萌社から最も近い場所、飆の外れに生えている樫の大木には洞がある。その洞が寿の家。
「寿、起きよ。」
ペシペシ。
「うぅん、もう朝ぁ。」
いいえ、真夜中です。満月がキラキラ輝いています。
「和山社から蛇が沼垂にって、オイッ。」
ペシッ。
「蛇より兎が良ぃぃ。」
スピィ。
「噛みつくぞ。」
食い付いたら離れないケド、水の中に入れられたら放します。それが鼈、ヨロシク。カプッ。
「キャイン。」 イタァイッ。
甘噛みでも眠気が吹っ飛んだ。
沼垂社の札を首から提げ、涙目で出頭。じゃなくて和山社を訪れた寿。耳をペタンと伏せ、キュルルン。
チョッピリ闇には強いケド、痛いのは嫌だよ。ウルウル。
やまとは八百万の神の国だが、人の世の果てや生き物が暮らせない地に御坐す、狭間の守神は百柱ほど。その守神がズラリ。
寿でなくてもビビります。
「寿よ、よく来てくれた。」
「沼垂神。」
今にも遠吠えしそう。でも耐えます、耐えて見せます。
「ずっと前の事なのだが、留萌のな。」
「はい。」
「巫だった詐に、ワフの他に子は居ったか。」
エッ。詐って、あの?
巫なのに出来るのは生口だけ。
神口も死口も偽りで、全て作り事。なのに『人柱を』とか『生贄を』とか言って、多くの生き物を嬲り殺した悪い人。
恐ろしくカンは良かったヨ。
そういえば十二になるか、ならないかって時にポッコリしてた。そうそう、音が二つしたんだ。それに夜久さまが『まだ子なのに』って。
思い出せ、思い出すんだ寿。・・・・・・あっ、ワフの飼い主と同じ匂いがした。
狩り人だけど頭じゃなくて、樵じゃナイのに森の中で暮らしていて、それで。ハッ! 坦から移り住んだ山守生まれ、山越育ちの男。
そうソウそうソウ、産んだ産んだ。
山守から長だか頭だか嫌なのが来て『女を差し出せ』って、それはソレは偉そうに言ったんだ。で詐が嬰児を『山守神に捧げます』って、涼しい顔してさ。
うん、間違いナイ。あの子からワフの飼い主の匂い、した。
「詐が幾つの時か、までは覚えておりません。けれど子の時に嬰児を産んで、『女を差し出せ』と言って来た、山守の民に渡しました。嬰児の父はワフの飼い主。山守生まれ山越育ち、坦から留萌に移り住んだ狩り人です。」
キリリ。
「坦か。」
「留萌神も坦神も、御隠れ遊ばした。」
「けれど坦には坦神の使わしめだったアラ、坦の祝だったミヲが居る。」
アラは犲の妖怪。ミヲは死んで隠となり、闇堕ちして妖怪になった。
二妖とも闇に強い。