表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
暗風編
1121/1591

12-39 何も残さず


霧雲山に御坐おわ狭間はざま守神もりがみ沼垂神ぬたりのかみは沼の神でも在らせられる。


使わしめが泥龜どろがめなのは当たり前? いえいえ、ずっと使わしめ不在でした。



泥垂ぬたりは底なし沼。カルデラ湖のように擂鉢すりばち状ではなく円柱形。一歩でも踏み入れればズボッ。


登別のぼりべつ別府べっぷの地獄沼ほどではナイが沼垂も高温、矢箆木沼やのきぬまと違って無毒。



沼そのものがあがめられているので営業ナシ。寒がりで内向的な隠、妖怪には夢のような沼なのに・・・・・・。



探すのをめると見つかる探し物のように、『このまま一柱でも良いか』と思った時に出会いました。沼の側で妖怪化し、寝落ちした妖怪に。


思い切って声を掛けたら寝惚ねぼけて噛みつかれたケド、優秀な使わしめを迎えられて良かったヨカッタ。






「沼垂神。使い犬の寿ほぎは、留萌神るめのかみの。」


「はい、湯溜神ゆだまのかみ。寿は留萌るめの社憑きでした。」




寿は仔犬の時は可愛かわがってくれた飼い主に捨てられ、野良となった犬のおにが融合して生まれた妖怪。


人を憎み切れず苦悩していたら『ウチに御出で』と留萌神に御声掛けいただき、そのまま留萌の社憑きとして就職。



留萌神の使わしめ夜久やくはチョッピリ食いしん坊で、何でもカンでも集めちゃう姫鼠の妖怪。何にも知らないワンコに根気よく、優しく丁寧に指導。



素晴らしい上司とステキな先輩に出会い、幸せに暮らしていた。その幸福を打ち壊したのが山守。


あの山崩れで多くの命が奪われると同時に溢れた闇を清めるため、夜久と寿を放ってから全ての魂を清め、御隠れ遊ばした留萌神。


放たれても山崩れにより失われた命と魂を救うため尽力し、留萌神と共に消滅した夜久。



寿は一妖、残されてしまう。



留萌はたいらに呑み込まれ、坦神たいらのかみの使わしめだったアラが守っている。


山崩れにより失われた命と魂を救うため、放たれた後も坦神と行動を共にしたアラは誓ったのだ。『人のときに残って山守から坦の地を守り続ける』と。



職と住処すみかを失った寿は黙って引っ越した。山津波に呑まれ流され、土に埋まった留萌社から近いひょうに。


転居して直ぐ『飆で強く生きます』と誓い、遠吠え。一礼してから旋風つむじかぜたわむれる。


そんなある日、沼垂神より『ウチの使い犬にならないか』とスカウトされ、『通いで良いなら』と御受けした。




「ワフがにえに選ばれた時、寿は流山ながれやまに居ました。御使いを済ませて戻ったら、もう。」




狩り犬として認められていたワフが、あの賢いワフが呪い神になっていた。


留萌にワフを救えるような祝は居ない。


だから寿は留萌神に『どんな闇でも清められる、光の力を持つ流離の祝に、ワフを清めてもらおうと思います。どうか御許しください』と伏して御願い申し上げる。



社を通って流離社なばのやしろを訪れた寿は流離神なばのかみこうべを垂れ、ワフが人懐っこく優しい犬だった事、皆から可愛がられていた事を御伝えし、ワフを救えるのは流離の祝しか居ないと訴えた。


その願いは聞き届けられ、強い清めの力を持つ社の司、強い守りの力を持つ禰宜ねぎ、光の力を持つ祝が力をふるう。




「生まれた合いの子は、幸せそうに笑いながら消えて無くなった。そう聞いた覚えがあります。」


「はい、その通りです。」




腹を破って誕生し、瀕死のを食い殺して咆哮ほうこう


同日同時刻、父ワフは寿から依頼を受けた流離社三人衆により、流離と沼垂の間で浄化され、せがれの声を聞きながら消滅。


倅は人からは『イヌ』と呼ばれていたが、寿に『これからはワフ、父の名を継ぎなさい』と言われ涙を流す。



暴力的だが無力と判断され、投獄された倅のワフはおのの命を代償に獄中からかたきを呪い殺し、満足して微笑みながら消滅。


父子共に何も残さず、旅立った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ